愛情の鎖
どうしてか、異様なほど胸がドキドキしていた。
私の勘違いのはずなのに、妙に嫌な気分が込み上げてくる。
マンションに帰る途中、何度も「大丈夫っすか?」と翔太に聞かれたけれど、私は無言のまま頷くことしかできなくて。
「お帰りなさいませ。澤田様」
マンションに着くと、真っ先に爽やかな笑みが飛んでくる。
エントランスのカウンターにいる遠藤さんにニコリと挨拶をされて、軽くお辞儀をした私はちゃんと顔を向けることができなかった。
「おや、なんだか顔色が悪いようですがどうかなさいました?」
さすが優秀なコンシェルジュ。
少し距離があるのにも関わらず、するどい遠藤さんに思わず乾いた笑みをつくった私。目の前の彼にはすぐに見破られてしまったようだ。
「今、少しお時間はありますか?」
「え?」
「先日注文していた美味しいハーブティーがやっと手に入ったんです。よかったら一杯いかがですか?気分もスッキリしますよ?」
縁無しフレームのメガネをくいっと上げて、穏やかに言う遠藤さん。相変わらず黒のスーツを身にまとい、気品溢れるたたずまいだ。
私は少し迷いながら「今はちょっと……」と、断りをいれようとして、ふと、エントランスの隅に設備されてあるガラス張りの喫煙室の方へと目がいった。
するとそこには、見覚えのある後ろ姿。
気だるそうにタバコを吸うコウさんの姿を見つけ、私は「あ……」とそこに視線を止めた。