下町退魔師の日常
「ごちそうさまでしたぁ!」


 両手を合わせて、あたしはキッチンで洗い物を済ませる。
 久遠くんは、一足先に玄関先の掃除をしに階段を降りて行った。
 ホント、よく働くよね。
 旅館でもあのくらい働いていたのかな。


「・・・・・・」


 昨日の、久遠くんの昔の彼女がどーのっていう話を思い出す。
 けど、それを無理矢理追い出すように、ブンブンと頭を振って。
 父さんが書いたノートを開く。
 うぇぇ・・・どっかの大学生が必死で勉強しました、っていう感じのノートだよ。
 だから昨日、読んでいるうちに一気に眠気が来たんだ。


「あれ?」


 パラパラとノートをめくっていて、あたしは最後のページが切り取られている事に気が付いた。
 書き損じたのかな、父さんは。
 しっかし、よくここまで書き込んだよね、ノート一冊分。
 ついでに言わせて貰うと。
 松の湯の女たちは、基本ガサツな性格らしい。
 ばあちゃんのノートも、母さんのノートも、殆ど殴り書きに近かった。
 あたしも然り。
 それに比べて、じいちゃんはマメだったよなぁ。
 掃除だって、埃ひとつ我慢できない人だったし。
 このノートを見るに、父さんもマメなんだろうし。
 久遠くんは・・・。


「・・・・・・」


 あたしは、慌てて両手でほっぺたを覆う。
 なんか、物凄い妄想しちゃった。
 松の湯の前で、エプロンをかけた久遠くんとあたしが仲むつまじく並んでて・・・あたしの手には、可愛い赤ちゃん。
 幸せそうに見つめ合って。
 やっ・・・やだ、恥ずかしい。


「にゃ~・・・」


 やっと起きてきたサスケが、あたしの顔を見上げて一声鳴いた。
 あたしはサスケの鼻先に人差し指を突き付けて。


「久遠くんに言わないでよ、サスケ」
「にゃ」


 分かっているのかいないのか、サスケは呆れ顔でアクビを噛み殺して、あたしの膝の上で丸くなる。
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