下町退魔師の日常
 この星空と、久遠くんの笑顔と、この町。
 これだけでもう、あたしはホント幸せだと心から思った。
 意識しなくても、あたしも自然と笑顔になって。


「その顔」


 久遠くんは、あたしの頬に手のひらを当てた。
 キョトンとして、あたしは久遠くんを見返す。


「マツコの笑顔、ホント、癒される」


 いやそんな。
 直球で褒めてる?


「この顔を見れただけで、俺はこの町に来て良かったって思ってる」
「・・・・・・」


 褒めて・・・るんだよね?


「泣いたり笑ったり怒ったり、見てるだけで飽きないよな」


 ・・・・・・。
 ・・・バカに、してる?


「聞いてんのか?」


 今度は両手であたしのほっぺたを挟み、久遠くんは、ぐいっと顔をこっちに近付けた。
 くっ・・・口が、タコチュー状態。


「マツコに会えたから、俺は」


 この町に来て良かった。
 そう言いながら、久遠くんは、挟んでいた手をあたしの顎に添えて。
 心持ち、上向かせた。
 そのまま、重なる唇。


「・・・・・・」


 身動き、出来なかった。
 目を閉じるのも、息をするのも忘れていた。
 ただただ感じる、久遠くんの温もりと吐息。


「ありがとな」


 唇を離して、久遠くんはあたしの頭を引き寄せた。
 やっと呼吸を再開して。
 抱き締められたまま、力を抜いて久遠くんに身を任せる。
 きっと。
 ーーきっと、これがずっと続くんだ。
 目の前の、鬼姫という壁を乗り越えたら。
 そしたら今度こそあたし達は、ずっと一緒だ。
 これからも、こんな日は二人でここで夜空を見上げたい。
 あたしは心から、それを願ったーー。
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