下町退魔師の日常
「あたしはね。ぶっちゃけ、鬼姫なんていなくなればればいいって思ってる。この町を苦しめて、父さんと母さんをあたしから奪った存在を、憎んでないと言えば嘘になる。だから、あたしのこの手で倒したい」


 本音だった。
 鬼姫さえ居なくなれば。
 この町は普通の日常に戻り、あたしも敵討ちが出来る。
 恨みも憎しみも、これでもかっていうくらいあるよ。
 だけど、何となく・・・分かる。
 恨みと憎しみは、時を追うごとに増殖していく。
 何処かで断ち切らない限り、それが永遠に続くんだ。
 そんなの・・・そんなのって、悲しいよ。
 だから。


「確かめよう、久遠くん」
「マツコ・・・」
「彼女に聞いてみようよ、本当の気持ちを。でももし鬼姫が本当に鬼になってたら・・・あたしは、その時は容赦しない。それでも、いいかな?」


 久遠くんは、頷いた。


「ありがとな、マツコ」
「お礼を言われるような事じゃないんだけど」


 あたしは苦笑する。
 久遠くんは1歩前に進んで、祠の扉に手をかけた。
 人の手では、絶対に開かない扉。
 久遠くんには、開けられるんだろうか。
 あたしは、ゴクリと喉を鳴らす。


「いくよ、マツコ」


 そう言うと、久遠くんは両手に力を込めた。
 あたしの足元に座っていたサスケは、ゆっくりと腰を上げる。
 祠の扉が、ギギっと音を立てて軋む。
 同時に、あたしは短刀に巻いてある布を取り払った。
 祠を中心に、嫌な空気が辺りに立ちこめる。
 これは・・・。
 この感覚は。


「フーッ!!」


 サスケが唸った。
 そして、祠の扉は、久遠くんの手によって、完璧に開け放たれた。 
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