下町退魔師の日常
 夜の空き地の暗闇よりも更に祠の中は真っ暗で、まるでその中だけ違う空間が広がっているかのようだった。
 あたしは反射的に、そのまま動かない久遠くんのTシャツを強く引っ張って、祠から遠ざけた。
 あたしだから分かる、この感覚。
 低い声で唸り続けるサスケ。


「何か・・・出て来る」


 あたしは言いながら、短刀を鞘から抜いた。
 錆びた刀身が剥き出しになる。
 と、同時に。


「・・・!!」


 祠の中からいきなり腕が伸びて来て、あたしは久遠くんを押し退けてその場を飛び退いた。
 鋭い爪は、たった今あたし達が立っていた空間をえぐる。
 これって・・・。


「チッ」


 舌打ちして、あたしは祠から今にも出て来ようとする魔物に、短刀を向けた。
 鬼姫じゃない。
 これは。


「餓鬼!」


 久遠くんに、下がるようにジェスチャーで伝える。
 短刀を構え餓鬼と対峙するあたしの横を、サスケが走って通り過ぎた。
 今にもあたしに襲いかかろうとする餓鬼の後ろ。
 祠の中から、また異様な気配がする。
 サスケはそれを分かっていて、祠から出て来た魔物に、先手を打って攻撃を仕掛けた。
 ――・・・まさか!
 振り下ろされる餓鬼の腕を間一髪すり抜けながら、あたしは目を見張る。
 餓鬼が、二匹。
 今までこんな事、なかった。
 一回の襲撃で出て来るのは、いつも一匹だ。
 だけど今回は二匹。
 こんな事は初めてだ。
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