下町退魔師の日常
 あたしは一瞬、パニックに陥りそうになる。
 餓鬼は魔物の中でも力が弱く、あたしなら倒すのは雑作もない相手だ。
 だけど、それはあくまでも一対一の戦いでの事。
 一度に二匹を相手にした事はない。


「シャァァァ!」
「サスケ!」


 サスケが、後から出て来た餓鬼に飛び掛かる。
 上手く相手の腕をすり抜けながら、つかず離れずに餓鬼の周りをぐるぐると回っている。
 そうか!


「ありがと、サスケ!」


 あたしは目の前の餓鬼の攻撃を、短刀で受け流しながら言った。
 サスケに救われた。
 上手く相手の注意を引いてくれている。
 これなら、相手が二匹だろうが問題ない。
 落ち着いて、一匹ずつ倒せる!
 そう思った、次の瞬間。


「・・・!?」


 もう一匹、魔物が祠から出て来た。
 今度こそ、あたしは焦る。
 サスケもあたしも、手一杯なのに!


「久遠くん逃げて!!」


 そう叫ぶ間にも、餓鬼はあたしを喰らおうと、耳まで裂けた口を大きく開けて襲ってくる。
 間一髪、それを避けて。
 素早く体勢を整えたあたしの視界に入ったのは、鬼だった。
 鬼はあたしやサスケには目もくれずに、真っ直ぐに久遠くんに襲いかかる。
 久遠くんは、掴みかかる鬼の腕を、横に飛び退いて何とかかわした。
 最悪、かも知れない。
 鬼は、餓鬼よりも質が悪い。
 闇雲に襲ってくる餓鬼と違って、多少なりともこっちの動きを見極めた上で攻撃を仕掛けてくる。
 餓鬼二匹だけでも持て余しているのに、最悪な相手が久遠くんに襲いかかっている。
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