下町退魔師の日常
「・・・くっ!」


 どうしたらいいの。
 あたし一人で・・・魔物三匹を一度に相手にするなんて、到底無理だ。


「マツコ!」


 鬼と対峙しても、久遠くんは怯んではいない。
 それどころか、軽い身のこなしで、上手く逃げている。


「久遠くん!」
「俺はいい、落ち着いて一匹ずつ倒せ!」


 もう、それしかない。
 相手が何匹だろうと。
 祠の扉を開けたのは、こっちなんだから。
 鬼姫が出て来るまで、戦ってやる!
 あたしは短刀を脇に構え、目の前の餓鬼を見据える。
 先ずは、あんた!
 こっちに突進してくる餓鬼。
 その爪をかわして、あたしは餓鬼の後ろに回る。
 錆びた短刀が、ほのかに輝く。
 今だ、行け。
 早く、糧を頂戴。
 まるで、短刀がそう言っているように思えた。
 分かったわよ。あんたが望むとおり、今夜は思い切り血を吸わせてあげるから!
 そしてお腹いっぱいになったら、出て来なさい。
 この悲しみの連鎖の元凶。
 背後を取られ隙だらけの餓鬼の背中に、あたしは短刀を突き刺す。
 どくん、と、その刀身が震えた。
 今まで何度も感じた事のある、この感触。
 あたしは、奥歯を噛み締める。
 血を吸う短刀が喜びに打ち震える、この感覚。
 あたしはそれが、嫌いだ。
 でも今は、そんな事言ってる場合じゃない。


「次っ!!」


 霧散するように消える餓鬼から視線を外し、あたしは手近にいるもう一匹の餓鬼に飛び掛かる。
 いくらこの感触が嫌いでも。
 目の前の魔物とあたしが戦う手段は、この短刀しかないのだ。
 疲れてきたのか、サスケの動きもだんだん鈍ってくる。
 頑張って、サスケ!
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