下町退魔師の日常
 短刀はにわかに輝きを増す。
 まだ、獲物がいるのか。
 それが分かっていて、喜んでいる。
 あぁそうよ。
 今回はお腹いっぱい、あんたのエサを食べさせてあげ・・・。
 ・・・あれ?
 サスケが引き付けている餓鬼に立ち向かいながら、あたしは何処か違和感を感じた。
 だけどそんな事に構っている余裕はない。
 餓鬼の爪が、あたしの左腕を掠めた。
 まるで刃物で切られたかのように、すっと血が滲む。
 それでも構わずに、息を切らしながら餓鬼の動向を見極めようと意識を集中した、その時だった。


「っ・・・!」


 背後で、久遠くんが小さく呻く。
 あたしは思わず振り向いた。
 途端に、餓鬼の爪があたしの脇腹をえぐる。
 地面に倒れ込む直前、久遠くんが鬼に両腕を掴まれているのが見えた。


「久遠くん!!」


 あたしは叫ぶ。
 けど、餓鬼が倒れたあたしに覆い被さり、肩を押さえ付けた。


「しまっ・・・!」


 身動き出来ないどころか、餓鬼の爪が肩に食い込む。
 サスケは必死に、餓鬼の足を引っ掻いている。
 そんな事は一切気にしない様子で、餓鬼はあたしに牙を剥く。
 やばい。


「マツコ!!」


 久遠くんが叫ぶのが聞こえた。
 激痛に耐えながら、あたしは短刀を逆手に持ち替えた。
 ここでやられてたまるか!
 かろうじて動く右手の肘を動かし、あたしは餓鬼の腕を短刀で切り付けた。
 餓鬼は呻き、切り付けられた腕から少しだけ力が抜ける。
 その瞬間、あたしは思い切り餓鬼を蹴り飛ばした。
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