下町退魔師の日常
 餓鬼にひと太刀振るう度に、短刀は輝く。
 恍惚に浸っているように。
 今までと少しだけ違うその感覚を気にしながらも何とか立ち上がり、あたしは久遠くんの方を見た。
 久遠くんの上段蹴りが、鬼にヒットする。
 さすが長い足なだけあるわ!
 キレイに入ったもん!


「久遠くん!」
「心配すんな。まだ序の口だろ!」


 そうだ。
 あたし達、こんな所で参ってる場合じゃないんだ。
 鬼姫をこっちに呼び出してからが、本当の戦いなんだ。
 ・・・ホントに来ればの話だけど。
 迫り来る餓鬼の鋭い爪。
 早く、早く。
 どこまでも血を渇望しているかのように、短刀に力がみなぎる。
 あたしは、短刀がいざなうままに、一気に餓鬼の懐に飛び込んだ。


「ギャァァァァ・・・!!」


 断末魔の餓鬼の叫び声が、祠の空き地にこだまする。
 肩で息をしながら、あたしは短刀を顔の前まで持ち上げた。
 何だろう。
 今や、眩いばかりに輝いている短刀。
 流れるあたしの血すらも、この短刀に吸い込まれていく。


「にゃ」


 サスケが短く鳴いた。
 あたしは我に返ると、久遠くんの元へ急ぐ。
 久遠くんも、少なからず傷ついていた。
 鬼はちゃんとあたしのことを認識しているらしく、ちらりとこっちを一瞥する。
 そして、くぐもった唸り声を発した。


「久遠くん!」


 あたしは、間合いを取っている久遠くんと鬼の間に立ちはだかる。


「大丈夫?」
「あぁ」


 短い会話。
 本当はちょっと確認したい事があるんだけれど・・・今は、そんな余裕はない。
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