下町退魔師の日常
 鬼がこっちに突き進んでくる。
 あたしは重心を下げ、短刀を前に突き出した。
 だけど・・・さっきから感じる違和感は、拭えないでいる。
 何なの、コイツ?
 そんな疑問は、長年付き添って来たあたしの相棒でもある、短刀に向けられていた。
 久遠くんがこの町に来る前も、確かに短刀を使って魔物退治をしていた。
 その度に・・・魔物を倒す度に、短刀は脈動する。
 だけど、短刀の由縁を、あたしは考えてもいなかった。
 久遠くんが来て、鬼姫の伝説を教えてくれて。
 そこでやっと、この短刀が代々松の湯に伝わってきた訳を、あたしは知った。
 短刀に吸い込まれる血は、鬼姫が復活するための糧なのだ。
 そして今夜は・・・立て続けに魔物を倒している。
 だとすると・・・もしかして。
 あたしは、最後の一匹、目の前に迫り来る鬼の動きに集中する。
 最後の、一匹。
 これを、倒したら。
 鬼は、最大限の警戒を、あたしに対してしている。
 低くくぐもった吐息を吐きながら、真っ直ぐにあたしを見ている。
 あたしも、鬼から視線を外さない。
 これを切り抜けたらきっと・・・。
 もう、あたしの考えは確信に近かった。 
 鬼とあたしは、同時に動く。
 だけど鬼は、あたしをかわして真っ直ぐに、久遠くんに襲いかかった。


「久遠くん!」


 物凄いパワーの体当たりを、久遠くんは何とか両腕でガードする。
 こんのぉ、あたしより久遠くんに襲いかかるなんて。
 体格の重量差の違いからなのか、為すすべもなく久遠くんは張り倒された。
 その隙を突いて、鬼は素早い動きで動けない久遠くんを狙う。
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