下町退魔師の日常
 あたしの全身から、血の気が引いた。
 確か・・・。
 シゲさんが、20年前の事を話してくれた時。
 鬼姫に、侍だと勘違いさせて呼び出して。
 そして、父さんは。
 ――・・・どう、なった?


“最後には・・・鬼姫を祠に押し戻した”


 確か・・・そう、言っていた。


“お前の父ちゃんはな、鬼姫と一緒に祠の中に消えたからなぁ”


 だけど当然、父さんは久勝さまっていう侍ではなくて。
 それからも、魔物は以前と同じように、この町を襲う。
 でも、久遠くんなら?
 侍の血を引く久遠くんなら?
 まさか!!
 まさか久遠くん、父さんと同じように、鬼姫をーー!!


「ま・・・待っ・・・」


 最早、あたしは完全にパニックに陥っていた。
 身体が動かない。
 声すらも、思うように出せない。
 まさか久遠くん、最初からそのつもりだったの?
 ・・・嫌だよ!


“何があっても、お前を守るから”


 そう言ってくれたじゃない!
 こんなの、守るって事じゃない。
 今、思い出した。
 父さんも母さんも居なくなって、どれだけ寂しかったか。
 毎晩毎晩、あたしは泣いていた。
 じいちゃんがずっとあたしに寄り添ってくれていたけど。
 そのじいちゃんも、あたしが見えない所で、泣いてたんだよ。
 最愛の娘と、娘が愛した息子が、一度に居なくなって。


『父ちゃんと母ちゃんはな、この町を・・・お前を立派に守ったんだ。だけどなぁ・・・これじゃあなぁ・・・残った俺達ゃ、どうすりゃいいんだよ・・・なぁマツコ・・・』


 そうなんだよ。
 そんな悲しい思いは、もうしたくないのに。
 やっと・・・やっと出逢えた、かけがえのない、たった一人の人なのに。
 久遠くん・・・!!
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