下町退魔師の日常
 その時。
 短刀から浮き出る光とは違う明かりが、あたしの視界に入った。
 同時に、バキバキっ! と、何かが壊れる音がする。
 一瞬、何が起こったのか分からない。
 だけど、そんな事に構ってはいられない。
 何か知らないけれど、やたらと現実味のあるその音のおかげで、我に返る事が出来た。


「・・・行かせない・・・!」


 あたしは短刀を構える。
 あたしの大事な人を、鬼姫なんかに奪わせない。
 その人はあたしの久遠くんで、間違ってもあんたの久勝さまじゃないんだからね!!
 あたしは、二人の方へ走り出す。


「久勝さま」


 抱き合ったまま、久遠くんを見上げる鬼姫。
 その表情は、人間とは思えない程、妖艶だった。
 久遠くんはどういう訳か鬼姫のなすがままになっていて、全然動かない。
 無表情のまま、鬼姫から視線を外す事もなく。
 その様子はまるで、鬼姫が放つ禍々しい“気”に、久遠くんが捉えられているかのようだった。


「今度こそ・・・未来永劫、わらわと共に居てくれるのでございますね・・・?」


 鬼姫の問い掛けに、久遠くんは無表情のまま頷く。
 満足そうに、鬼姫は、ニヤリと笑う。
 ちらりとこっちを見る勝ち誇った視線に、あたしは腹わたが煮えくり返った。
 だけどそんな事を気にかける様子など微塵もなく、鬼姫は祠に向かう足取りを止めた。


「ならばその前に・・・忘れ物がございます」


 あたしはもう怯まない。
 短刀を構え、鬼姫に向かって一直線に走り出す。
 あんたなんかに――。


「あんたなんかに、久遠くんを渡すもんかぁぁぁっ!!」


 怒号とともに、あたしは鬼姫に飛び掛かる。
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