下町退魔師の日常
幹久が必死で何か叫んでいるのが遠くに聞こえた。
あたしの意識は朦朧としていて、何を言っているのかまでは分からない。
だけど、これだけは、はっきりと聞こえた。
「もう何もお前の糧にはならねぇよ・・・終わらせるんだ、何もかも」
それと同時に、苦しさと手首の痛みが和らぐ。
次に聞こえたのは。
「ギャァァァ・・・!!」
魔物の、叫び。
いきなり解放され地面に尻餅をついて、あたしはそのまま激しく咳き込む。
咳き込みながら片目を開けて上を見ると、短刀を手にした久遠くんが、鬼姫を見据えていた。
「久遠くん!!」
鬼姫の口からは、おびただしい血が流れている。
朦朧とする意識の中で見たのは、あたしの手から離れた短刀が、まるで吸い寄せられるかのように、久遠くんの手に収まるところ。
短刀を手にした久遠くんは、即座に鬼姫の舌を断ち切ったのだ。
久遠くんが、短刀を扱った。
その事実に、あたしは驚く。
苦しみにのたうちまわる鬼姫。
その姿はもう、同情の余地がないくらい、人間とはかけ離れたものだった。
「おのれ・・・! おのれぇぇぇぇ!!」
怨みに満ちた鬼姫の形相。
久遠くんは、あたしに手を差し延べる。
あたしはその手を取って、立ち上がった。
ジグソーパズルの、最後のピース。
そこに、描かれていたのは。
「大丈夫か?」
「うん」
あたしは頷いて、短刀を持った久遠くんに右手を添える。
まばゆい光が、あたし達を包み込んだ。
鬼姫はその爪を立て、真っ直ぐにあたし達に向かってくる。
一歩踏み出すごとに、あたし達の身体が刻まれていく。
「血だ・・・血を寄こせ! 我の糧を・・・!」
狂ったように、鬼姫は叫ぶ。
久遠くんは、そんな彼女を哀れむような、そして少しだけ悲しそうな表情で見つめていた。
だけどそれは一瞬で、あたしを支える腕に力を込めて。
「マツコ。終わりにしよう・・・何もかも」
久遠くんは言った。
全てを終わらせて。
そして、これから始まるんだ。
この町の・・・あたし達の、本当の、日常が。
「うん。終わらせる!」
あたしは、久遠くんに添えた手に、力を込めた。
――・・・そして。
短刀は自らその切っ先を導くように、寸分の狂いもなく、鬼姫の胸元に突き刺さる。
あたしの意識は朦朧としていて、何を言っているのかまでは分からない。
だけど、これだけは、はっきりと聞こえた。
「もう何もお前の糧にはならねぇよ・・・終わらせるんだ、何もかも」
それと同時に、苦しさと手首の痛みが和らぐ。
次に聞こえたのは。
「ギャァァァ・・・!!」
魔物の、叫び。
いきなり解放され地面に尻餅をついて、あたしはそのまま激しく咳き込む。
咳き込みながら片目を開けて上を見ると、短刀を手にした久遠くんが、鬼姫を見据えていた。
「久遠くん!!」
鬼姫の口からは、おびただしい血が流れている。
朦朧とする意識の中で見たのは、あたしの手から離れた短刀が、まるで吸い寄せられるかのように、久遠くんの手に収まるところ。
短刀を手にした久遠くんは、即座に鬼姫の舌を断ち切ったのだ。
久遠くんが、短刀を扱った。
その事実に、あたしは驚く。
苦しみにのたうちまわる鬼姫。
その姿はもう、同情の余地がないくらい、人間とはかけ離れたものだった。
「おのれ・・・! おのれぇぇぇぇ!!」
怨みに満ちた鬼姫の形相。
久遠くんは、あたしに手を差し延べる。
あたしはその手を取って、立ち上がった。
ジグソーパズルの、最後のピース。
そこに、描かれていたのは。
「大丈夫か?」
「うん」
あたしは頷いて、短刀を持った久遠くんに右手を添える。
まばゆい光が、あたし達を包み込んだ。
鬼姫はその爪を立て、真っ直ぐにあたし達に向かってくる。
一歩踏み出すごとに、あたし達の身体が刻まれていく。
「血だ・・・血を寄こせ! 我の糧を・・・!」
狂ったように、鬼姫は叫ぶ。
久遠くんは、そんな彼女を哀れむような、そして少しだけ悲しそうな表情で見つめていた。
だけどそれは一瞬で、あたしを支える腕に力を込めて。
「マツコ。終わりにしよう・・・何もかも」
久遠くんは言った。
全てを終わらせて。
そして、これから始まるんだ。
この町の・・・あたし達の、本当の、日常が。
「うん。終わらせる!」
あたしは、久遠くんに添えた手に、力を込めた。
――・・・そして。
短刀は自らその切っ先を導くように、寸分の狂いもなく、鬼姫の胸元に突き刺さる。