下町退魔師の日常
 寒いってボヤいてる割には、帽子も被らずに。


「特に頭が寒そうだよ、シゲさん」
「そう思うんならマツコ、手編みの帽子の一つも作ってくれや」


 あたしのイヤミも何処吹く風のシゲさん。
 あたしが編み物とか出来ないの知っててわざと言ってるな。
 そんなシゲさんが夏も冬も変わらないのは、その独特なスタイルと、片手に抱えた一升瓶だ。


「よぉ久遠、後で一緒に一杯やろうや」
「いいねぇ。寒くなってきたから、熱燗でグイッと」
「バカ野郎お前、知ったような口を聞くんじゃねぇよ」
「さっき商店街に行ったら、いいツマミになりそうなブリ見付けたんだよ」
「よぉし、よくやった久遠、夕方までに旨いツマミ作っとけ」
「りょーかい」


 そこであたしはまた、咳払いを一つ。
 シゲさんと久遠くんは、ビクリと固まった。
 何で反応が同じなの、この二人。
 あたしは、クスッと笑う。


「でもまぁ、あたしも食べたいかな。その美味しいブリをね」


 どうせ放っておいてもまた夜になれば、町のみんなが集まって。
 松の湯名物の宴会が始まるんだから。
 それに、久遠くんの料理はもう、近所のマダム達の胃袋を掴んで離さない。
 今じゃ、宴会&久遠くんの料理教室みたいになってるし。
 そんなこんなで、夜になり。
 思った通り、松の湯は今日も、町の人達で溢れかえる。


「よぉ、まっちゃん」


 宴会のさなか松の湯にやって来たのは、幹久だった。


「よぉ、ミッキーパパ」
「何か可愛くねぇよな、そのあだ名」


 あたしとしては、ナイスネーミングだと思うんだけど。
 すると幹久は、一枚の白黒写真を、番台に置いた。
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