下町退魔師の日常
 だって。
 いつの間にか、サスケがイケメンの足元に近付いて、すりすりと身体を擦りつけていたから。
 動物の野生のカンは鋭いって言うけど、サスケはもっと特別だ。
 あたしはそれを、知っている。
 ホントに危なかったら、あんな風に近付いたりしない。
 イケメンが、サスケを抱き上げて膝の上に乗せた。


「・・・お前、ここの猫だったのか」


 もう、ため息しか出て来ない。
 今日、サスケがずっといなかった理由がやっと分かった。


「もしかして・・・サスケの後をついて来た、とか?」


 あたしの質問に、イケメンは顔を上げた。


「どうして分かる?」


 やっぱり。
 連れて来たのはあんたね、サスケ。
 腕組みをしてサスケを睨み付けるけど、当の本人はイケメンの膝の上で、気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
 確かさっき、ナイフで襲おうとしたんだよね。
 それなのに、今、サスケを撫でているその表情は。
 凄く温和で、優しそうだった。
 とても「血が見たい」なんて言ったヤツと同一人物とは思えない。
 血が――。


「・・・!!」


 慌てて番台から離れるとテレビに駆け寄って床に這いつくばり、その下に手を入れる。
 あった、ナイフ!


「あんたさぁ、冗談でこんな事やってる?」


 あたしはナイフを拾い上げて、それをちらつかせながら言った。


「冗談なんかじゃない。俺は本当に、血が見たいんだよ」


 ・・・至極真面目に、言い返された。
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