下町退魔師の日常
 なんか・・・危ない、コイツ。
 そう思い、あたしはナイフを後ろ手に隠して、1歩下がった。
 イケメンはずっと、サスケを撫で続けている。
 ・・・サスケ。
 あんた、どうしてこんなの連れて来たのよ。
 気持ち良さそうにしてんじゃないわよ。
 そんな姿見たら、警戒心薄れちゃうじゃない・・・。


「ごもり くおん」
「え?」


 変わらずにサスケを撫でながら、イケメンは言った。
 何かの呪文?
 あたしが首を傾げていると。


「護守久遠。俺の名前だ」
「久遠・・・さん」


 へぇ・・・珍しい名前。


「あ、あたし、松嶋舞鶴子。一応この銭湯のオーナーで・・・」


 って、つい自己紹介しちゃったけど。
 ・・・・・・。
 も、いいわ。
 あたしはナイフを番台の引き出しに仕舞うと、ついでに小銭を持って来て久遠と名乗ったイケメンに聞いた。


「何か飲む? コーヒーでいい?」


 なんかもう、疲れた。
 思わぬ残業と、思わぬアクシデントで。
 沈黙は承諾と見なして、あたしは勝手に自販機でコーヒーを買った。
 もちろんあたしの好みで、ブラックのアメリカン。
 出て来たカップを久遠くんの目の前に置く。
 そして、自分のが出て来るのを待っている間。


「あたしはね、ここで一人暮らしなの。だから、サスケは唯一のあたしの家族。その家族が連れて来たお客さんなら、話くらいは聞くわ。例えそれが、どんなヤツでも」


 これは本心だった。
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