下町退魔師の日常
 久遠くんといい、幹久といい。
 全く、意味わかんない。
 あたしは、久遠くんをよけて前に進もうとする。
 だけど、今度は腕を掴まれた。


「もー・・・まだ何かあるの!? ややこしい話なら、聞く耳ありませんから!」


 あたしは、声を荒らげた。
 この2人、何が言いたいのかさっぱりわかんない。
 ただでさえ、今日のあたしは意味もなくイライラしてるってのに。
 掴まれた腕を振り解こうとしたら、ぐいっと引っ張られた。
 ガクンと身体のバランスが崩れる。
 あたしはそのまま、久遠くんに抱き締められていた。


「・・・く・・・おん、くん?」


 なにこれ。
 何でこんな事になってんの?
 訳が分からずに背が高い久遠くんを見上げようとしたけど、久遠くんがギュッと抱き締める腕に力を込めたから、苦しくて動く事が出来なかった。


「お前は、俺が守る」
「・・・・・・」


 しばらくは、何を言われたのか分からなかった。
 どうもありがとう、よろしく・・・で、終わらせていい会話じゃないよね、これ。


「どうしたの、急に・・・」


 聞いてみたけど、久遠くんは答えてはくれなかった。
 やっと開放された時、女子高生たちがやって来た。
 いらっしゃい、と、あたしは慌てて番台に上がる。
 あーもう。
 おかげで女湯の備品のチェック、出来なかったじゃない。
 何なのよ一体。
 あっという間に女子校生に囲まれている久遠くんを、番台の上で頬杖をつきながら見つめる。
 さっきの真剣な様子とは打って変わって、砕けた口調で女の子たちと喋っていた。
 どうして、さっきあんなこと・・・。
 あんなこと・・・。
 抱き締められた感触が蘇る。
 今更だけど、ドキドキしてきた。
 だっ・・・誰かに見られたら、どうするつもりだったんだ?
 いやそうじゃなくて。
 久遠くんに・・・抱き締められたんだ。
 そう思ったら、顔が熱くなる。


「マツコさん?」


 いきなり声をかけられて、あたしはびくっと飛び上がりそうになった。
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