下町退魔師の日常
「どうしたんですか、ほっぺた抑えて。虫歯でも痛むんですか?」
「ちっ・・・違います! って、あれ? えーと・・・」


 あたしは、いきなり話し掛けてきた番台の前に立っている男の子をぽかんとして見つめた。
 どちら様でしたっけ。
 言いかけたけど・・・どっかで見た事があるような気がする。
 彼、あたしの名前も知ってるし。
 誰だったっけ?


「久しぶりです、タカシです」
「タカシ、さん・・・タカシさん・・・って、ええええっ!?」


 あたしは思わず番台の上で立ち上がりかけ、引き出しに思いっ切り膝小僧をぶつけてしまった。
 この人が、ノリカちゃん目当てに一番風呂に毎日のように来てたタカシくん!?
 痛みを堪えながら、あたしはタカシくんをまじまじと見つめる。
 だって・・・だってさ!
 いつもうつむき加減で、マンガみたいな瓶底メガネかけてて、話し掛けても一言しか返って来なくて。
 そんなタカシくんが、ちゃんとあたしに話し掛けてる!
 いや、それだけじゃなくて。
 ボサボサに伸ばしっぱなしだったヘアスタイルは、短めの落ち着いた栗色に変わっている。
 いつもジャージ姿で、首にタオルかけて洗面器持ってきてたのに。
 今はゆったりめのジーンズと、白いポロシャツ。
 パソコンに一日中かじりついてるようなタイプが、何でこんな爽やか青年に変わってるの!?
 おかげで持ってる白い洗面器まで何だかオシャレに見えるよ!


「タカシくん、なんで・・・って、いや久しぶり!」


 そう言えば。
 ノリカちゃんが居なくなってから、タカシくんもここ2ヶ月くらいは姿を見せてなかった。
 タカシくんは、ノリカちゃんに恋をしていたの。
 彼から直接話を聞いた事はなかったけど、彼の態度を見れば、誰だって一目瞭然だ。
 そのノリカちゃんがこの町から居なくなって、きっとショックだったに違いない。
 だからここにも、来なかったんだ・・・。
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