下町退魔師の日常
 これ以上一緒にいたら、もっと嫌悪になるかも知れない。


「ちょっと、出てくる。お店任せていいかな」
「・・・・・・」


 黙っている久遠くんの返事を聞かずに、あたしは番台を降りて店を出た。
 かと言って正直、どこへ行っていいのか分からない。
 そうだよね・・・今まで1人だったから、店を放り出すなんて有り得なかったもん。
 久遠くんがいるから。
 久遠くんがいてくれるから、こんな事も出来ちゃうんだ。
 トボトボと歩いていると、いつの間にか商店街に来ていた。
 ホントなら、こんな時は1人静かに過ごせる場所に行きたいんだろうけど・・・あたしの場合、賑やかな方へ向かうんだね。
 商店街は夕ご飯の買い物をする人達で賑わっていた。
 歩いているだけで、色々な人から声をかけられる。


「あぁ、マツコちゃん」


 そう声を掛けてきたのは、駄菓子屋をしている梅田のお婆ちゃんだった。
 もう90近いお年なんだけど、毎日学校帰りの子供達を相手にしているから頭もしっかりしているし、何よりも元気だ。


「こんにちわ、お婆ちゃん。商売繁盛してる?」
「あぁ、おかげさまでねぇ」


 お婆ちゃんは笑う。
 店の軒先にパイプ椅子を置いて座っているけど、背中も丸くなってないし、お肌もつやつやしてて、血色がいい。


「良かった。体調良かったら、またお風呂に入りに来てよ?」
「そうだねぇ、もちろん行かせてもらうよ。ところで、マツコちゃんとこの男の子・・・何て言ったかね?」
「久遠くん?」
「そうそう、あの子にね、これを渡してくれないかね? 貸してくれって頼まれてたんだよ」


 紙袋を、お婆ちゃんから受け取る。


「なにこれ?」
「昔話じゃよ。あたしのお婆さんから買ってもらった絵本さ」
「絵本・・・」
「やっと見つけてね。あの子に読ませてやってね」


 分かった、と、あたしは頷いて、駄菓子屋を後にした。
 そのまま商店街を歩いていても。
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