下町退魔師の日常
「なんだいまっちゃん、久遠くんに店を任せてサボりかい?」
「マツコちゃん、久遠くんって食材見る目あるよ。どっかで料理人でもしてたのかねぇ?」
「あぁまっちゃん、明日新鮮な魚が入るから、久遠にそう伝えてくれや」
「久遠くん、甘いの好きかねぇ? おはぎ作ったんだけど、食べさせてやってくれる?」


 ・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・久遠くん以外の話題って、ないんだろうか?
 それにしても、いつの間にか商店街に馴染み切ってるのよ?
 そりゃあ最近、暇を見つけてはちょくちょく一人で出掛けてたりもしたけれど。
 商店街を歩き始めて30分後には、あたしの両手は久遠くんへの差し入れで一杯になった。


「・・・お・・・重い・・・」


 大きい台車でも持って来れば良かったかな。
 結局仕事を放棄したものの、行き場もなく、かと言って銭湯が気になって仕方がない。
 女子高生たち、変に久遠くんを誘惑したりしてないだろうか?
 タカシくん、もう帰ったかな。


「ここにマツコさんが座ってるだけで、安心するんです」


 ・・・だよね。
 そんなタカシくんの言葉を思い出す。
 ノリカちゃんと分相応になりたいと、あれだけ努力して自分を変えたタカシくん。
 あたしは・・・。
 久遠くんに釣り合うような女だろうか?
 そして、自分を磨く努力をしているだろうか?
 確かに、久遠くんを見ていると幸せな気持ちになれる。
 だけど、それだけじゃきっとダメなんだ。
 この歳になって、いい女になる努力もしなかったら。
 何も、変わらない。
 これじゃ、恋する資格も・・・ないかも・・・。


「・・・・・・」


 って、あたし、何考えてるんだろ。
 恋とか、思春期の娘じゃあるまいし。
 この歳になったら、そんな単純なものじゃないのよ。
 周りの状況とか、相手の事とか・・・色々考えたり・・・。


「はぁ・・・」


 分からない。
 考えようとするんだけど、相手の事どころか自分の今の気持ちすら、よく分からない。
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