下町退魔師の日常
 女が持たないと、短刀はただの錆びたなまくら刀でしかない。
 じいちゃんが若い頃持ってみたけど変化は起きなかったって、実証済みだ。
 だけど、久遠くんが今持っている短刀は、眩いばかりに光り輝いていた。


「久遠くん・・・?」


 女性かと思う程、綺麗で整った顔立ち。
 最初から、疑わしかったけど。
 あなたまさか、やっぱり!?


「あのな。生憎だけど、俺は男だ」


 どうやらあたしの疑問は全面的に顔に出ていたらしく、久遠くんは質問をぶつける前にあきれ顔で答えた。


「何なら脱ごうか?」


 やだ、脱ぐとか!
 ジーンズに手をかけなくていいから!


「でも、どうして・・・?」


 久遠くんがれっきとした男なら、どうしてその短刀は今“生きている”のか。
 だって、じいちゃんが持っても何も反応しなかったんだよ?
 何で錆びた短刀に戻ってないのよ!?
 すると久遠くんは、ふらついてるあたしの肩をしっかりと抱いた。


「言っただろ。俺はマツコを守るって」
「答えになってないよ・・・」
「帰ったら話す約束だ。先ずはコイツを片付けよう」


 そ、そうだった・・・!
 顔を上げると、鬼がサスケの背中を鷲掴みにして、地面に叩き付けていた。
 ぐうっと肺から漏れたような呻き声を上げて、サスケはそこから動けないでいる。
 こんのォ・・・!!
 サスケに何てことしてくれんの、コイツ!!
 あたしは久遠くんから短刀をもぎ取る。
 鬼は低く唸り声を上げながら、こっちを見据えた。


「離れて、久遠くん!」


 あたしは肩を支えている久遠くんを押し退けようとした。
 だけど力は入らずに、久遠くんの支えがないと立ってもいられない。


「マツコ」


 静かに、久遠くんは言った。


「この短刀は、俺が持っても『生きている』。けどアイツに致命傷を与えられるのは、お前だ」
「・・・え?」 
「だから、俺はお前をサポートする事が出来るんだよ」


 ウソでしょ。
 こんな細っこい身体で、さっき鬼に簡単に振り払われてたクセに。
 鬼は再び攻撃体勢に入り、こっちに突進しようと低く身構えていた。
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