下町退魔師の日常
☆  ☆  ☆




 気が付くと、何処かの病室のようだった。
 白い壁と天井。
 ベッドの周りに、薄いピンク色をしたカーテン。
 左側にも、誰も寝てないけど、よく病室にあるようなベッドが1つ。


「気が付いたか?」


 そう声を掛けられて右側を向くと、久遠くんがパイプ椅子に座ってこっちを見ていた。


「久遠くん・・・サスケは?」
「先ず自分の心配しろよ。んでもって、サスケは足元だ」


 言われてみれば、ベッドの足元に重みを感じる。
 サスケの姿を確認しようと首を持ち上げようとして、あたしは右肩の激痛に顔をしかめた。


「いてっ!!」
「20針縫う手術だったんだ。幸い、骨は折れてなかった」


 うっわー・・・そんなに・・・?
 やだ、嫁入り前なのに。
 どうなったんだろ、あたしの右肩。
 サスケはあたしが動いたのに気付くと、足元から顔の方に近付いて来た。
 だけど、動きがぎこちない。
 よく見ると、右足にギブスみたいな包帯を巻いている。


「サスケの方はな、右足を骨折してた。あ、お前が寝てる3日の間にちゃんと獣医に連れてったからな」
「そうなんだ・・・ありがと久遠くん・・・って、3日も寝てたの!?」


 今度こそ起き上がろうとしたあたしを、久遠くんはベッドに押し付けた。


「だんだんマツコの行動、読めるようになってきたぜ」


 そう言って、ため息をついて。
 何よそれ。
 あたしが単細胞だとか言いたいの?


「ほんっと、単純だな」
「どーせ単細胞ですよー」


 不貞腐れていると、久遠くんはまたパイプ椅子を引き寄せてベッドの横に座る。


「次にマツコが聞きたい事も予想つく。答えてやろうか?」
「さぁ、何でしょうかねー?」
「銭湯の営業を休んだのは、お前が手術した1日だけだ。後は俺が店を開けてる。そしてここは武田医院、サスケはちゃんと特別に入室許可を取ってあるから安心しな」


 あー・・・なるほど。
 あたし、そんなに分かり易いかな?
 武田医院と言えば、70歳を過ぎた武田先生が開業している、この町唯一のお医者さんだ。
 確か病室はこのひと部屋だけだ。
 でも、武田先生はベテランだけあって、その腕はなかなかの評判だった。
 こんな田舎町の開業医院にしては設備も大病院に負けないくらいに物凄く充実してるって、武田先生自ら自慢してるくらいだし。
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