下町退魔師の日常
「分かってるだろ。お前がこの町にいる限り、お前は自分を犠牲にする。またこんな目に遭うんだよ。町の連中はそれを、ただ黙って見てるだけだ」
「だってそれは・・・」


 苦しい。
 具合が悪い訳でもないのに、呼吸が荒くなる。
 胸が締めつけられる。
 あたしが犠牲になるならそれでいい。
 この町の人達は、あたしが小さい頃からずっと、とても優しくしてくれた。
 母さんを失ってからも、不思議と寂しいなんて感じる事はなかった。
 それは、じいちゃんやシゲさんや幹久、みんながいてくれたから。
 本当に、みんながあたしのことを愛してくれた。


「この町の連中は“どうして”マツコに優しいのか、考えた事あるのか?」


 ――・・・昔。
 二十歳位の頃、祠から出て来た魔物は、今回みたいに強かった。
 あの頃はサスケもいなかったから、あたしは一人で戦っていた。
 何とか勝ったものの、4箇所も骨折して、あちこちの傷は深く――じいちゃんが来るのがもう一歩遅かったら、命が危なかった時があった。
 正直言うと。
 その時、ほんの少しだけど、疑問に思ったんだ。


(どうしてあたし・・・こんな目に遭わなきゃならないんだろう?)


 今みたいに、病院のベッドの上で天井を見つめながら、あたしは一人で泣いた。
 でもその時、町の人達が、本気で心配してくれて。
 それは心から嬉しかった。
 だけど、小さな疑問は、間違いなく心の中で小さな種になって植え付けられていて。
 取るに足らない程の小さな疑問だったから、あたしは敢えてそこから目を背けていた。
 この疑問の種を、大きくしてはいけない。
 大好きなこの町の人達を、悲しませるから。
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