下町退魔師の日常
「みんなをそんな風に言わないで。久遠くんだって分かるでしょ? あんなに楽しそうに仕事してるじゃない。商店街の人達だって、凄く仲良くなれたじゃない!」


 そうだよ。
 町のみんなは、久遠くんにも優しかった筈だ。
 松の湯に来るお客さんにだって、久遠くんは笑顔で接していた。
 それなのに、どうしてそんなに悪く言うの?


「犠牲になるとかならないとか・・・そんなのどうでもいい。あたしがみんなを守りたいって思うの。それがあたしの・・・恩返しだと思ってる」


 久遠くんは膝の上で両手を握り締め、俯いている。
 あたしもやり切れない気持ちで、何を見るでもなく天井を見つめながら、サスケの背中をずっと撫でていた。
 前足のギブスが、痛々しい。
 あたしがこの町にいる限り、サスケもまたこんな目に遭うのだろうか。
 誰も巻き込みたくない。
 けど、結果サスケは怪我をしてるし、久遠くんだってあたしが戦っている間、じっと待っている事が出来なくて。
 今回みたいに、久遠くんにまで危険な目にあわせてしまった。
 あたしが退魔師だってことは、町の人達も当然知っている。
 だけど、あの祠や魔物の事を口にするのは、この町ではタブーだ。
 みんなはあの空き地に決して近付かないし、あたしが魔物退治をするのに松の湯を休業しても、誰もその理由を聞かない。
 それが、ずっと昔からこの町で暮らしてきた人々の決まり事なのだ。
 松の湯に生まれた女は、退魔師という仕事をあの短刀と共に受け継いでいく。
 あたしにとってはそれが当たり前であり、何も疑う事のない日常なのだ。
 母さんだって、ばあちゃんだって、その昔からずっとずっと、そうして生きてきた。


「久遠くん」


 あたしは、呼び掛ける。
 久遠くんはゆっくりと顔を上げて、こっちを見た。


「あたしは・・・この町を出る気はないよ。だってこれが・・・日常だもん」


 もしも、万が一。
 町の人達があたしのことを利用していようとも。
 それでいいと、あたしは思う。
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