下町退魔師の日常
「疲れたのか?」


 ふと黙り込んだあたしを気遣ってか、久遠くんは心配そうに言った。
 大丈夫だよ、とあたしは一応笑ってみる。


「あの祠から何が出て来ようとも、あたしは絶対に負けないから」
「・・・大怪我してるお前が言っても、信憑性に欠けるよな・・・」


 へーへー。
 すみませんねぇ。
 今回はちょっと、油断しましたけど。


「こんな怪我、すぐに治してやるわよ。格闘技で鍛えてきたんだからね、体力だけは自信があるの」


 ガッツポーズが作れないのが辛いけど。
 そんなあたしを、久遠くんは笑顔を浮かべながら見つめていて。


「ありがとな、マツコ」


 ふと、こんな事を言った久遠くん。


「こんな俺をちゃんと、受け入れてくれて――」


 ーーあ。
 やっぱり、久遠くんって・・・笑顔が、すっ・・・素敵、かも・・・。


「あっ・・・当たり前でしょ。久遠くんを否定する根拠なんて、どこにもないんだから。それに、この町はそういうの、慣れてますから」


 あたしは、そんな久遠くんを凝視できなくて、思わず目をそらした。
 呪いだろうが、魔物だろうが。
 ドンと来いよ。
 この町の人達だって、ちゃんと受け入れて生きているんだから。
 文句一つ言わずに。
 だから、ね。


「この町から出て行くとか・・・言わないでね」


 あれ?
 やだ、あたしったら!
 こんな事が言いたかった訳じゃないの!
 何か・・・思わず口を突いて出ちゃったっていうか・・・。
 そんな、一緒にいたいみたいなセリフ・・・。


「あぁ、分かってる」


 クスッと笑って、久遠くんはあたしの顔を覗き込んだ。
 そっと、あたしの前髪を払って。
 久遠くんの顔が近付いてきたかと思ったら、その唇が、あたしのおでこに触れた。


「サスケが俺達を引き合わせてくれたんだよな。お前にもお礼を言わなきゃな」


 そう言いながら久遠くんは、あたしの肩あたりで横になっていたサスケをそっと抱き上げてパイプ椅子に座り、膝の上に乗せた。 
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