下町退魔師の日常
「ホントにここは・・・いい町だよ」


 久遠くんはずっと、サスケの背中を撫でている。
 だけど、その口調は硬い。
 そんな久遠くんの様子を見て、あたしは聞いた。


「まだ何か・・・心配?」
「・・・・・・」


 久遠くんは硬い表情のまま、何も答えない。


「久遠くん?」


 あたしはもう一度、呼び掛けた。
 久遠くんはやっとこっちを見て、笑顔を作る。


「そろそろ店の掃除始めないと、営業時間に間に合わないな」


 そう言って、久遠くんは膝に抱いていたサスケをあたしの枕元に置いた。


「もう行くけど・・・何か食べたいのとかあるか? 明日買ってくるから」
「ん~・・・煮干しかな」
「煮干し?」
「サスケの好物なの。それに、骨折してるんでしょ? カルシウム取らなきゃ」
「サスケかよ」


 分かった、明日買ってくると言って久遠くんは病室のドアに手を掛ける。


「じゃ、ちゃんと先生の言う事聞くんだぞ?」
「分かってるわよ。じゃないとどんなお仕置きされるかわかんないもん」


 子供じゃないんだから、というあたしに手を振って、久遠くんは帰っていった。
 笑顔だったけど、久遠くんがまだ何か・・・思い詰めてるような気がした。
 どうしてもっと上手く聞き出してあげられないんだろう。
 久遠くんに対してまだ、どこまで踏み込んでいいのか分からない。
 あまり多くを語らない人なのは分かっているつもりだけど・・・。
 まだまだ、ちゃんと理解してあげられてない。
 ダメだな、あたしは。
 もっと、久遠くんが知りたい。
 もっと近くに居てあげたい。
 あたしは、自分のおでこに触れてみた。
 まだ、久遠くんの温もりが残っているような気がした。
 ――・・・不思議。
 これだけで、久遠くんがまだここにいるような気がする。
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