【短編】 ベテルギウスの幻影〜最初で最後のkiss
と、いうのは、真ん中の列のシートに座っていた高校生カップルが、最後列のシートに座る私の存在に気付かず、もう、こっちが恥ずかしくなるくらいイチャイチャしているんだもの。
もちろん、背もたれがあるから何をしているかは見えなかったけれど、声や気配で分かる。
おかげで、映画は上の空。
ま、何度も観た映画だからいいんだけど、こういうの、マナー違反だよね。
シャクに触った私は立ち上がり、女の子のドリンクホルダーにあった紙コップをわざとひっくり返してやった。
「きゃっ!」
一瞬にして、2人の体は離れ、白いワンピースの膝には、茶色いシミが広がった。
「ドジだなあ…」
男の子は、優しく言ってメッセンジャー・バッグからポケット・ティッシュを取り出し、シミの部分をとんとんと叩くようにして拭き取る。
「落ちるかなあ…これ、お気に入りなのに」
女の子の悲しそうな顔を見て、私は少しやり過ぎてしまったと思った。