ブンキテン


配架を終えて、カウンターに戻ってまず目に入ったのは頬に一筋の線ができている谷原くんの横顔だった。

窓から差し込む夕陽の光が、その線にキラリと反射する。



谷原くんが、泣いている。



わたしは声をかけることもできずに、ぼうっと立っていた。

なんで、という疑問より先に、好きだ、という思いが先にでた。言いたい、告白したい。

そして堂々とその顔に触りたい。涙を拭って笑顔がみたい。

じっと見つめる私の視線に気がついたのか、谷原くんは、ふとこちらを見て、ああ、と言って笑った。

「この絵本、懐かしいなと思って読み始めたら泣けちゃって」

照れたようなその顔も好きだ。すきだ。
胸が苦しい。

「そ、それならわたしも読んだことあるよ」

カウンターの中に入って椅子に座りながら、平静を装って話を合わせる。

谷原くんが持っているのは、確か海外の作家が書いた少年とその飼い犬の話。

成長する少年と、老いていく犬の愛にあふれる話。

「俺、犬飼ってないからわからないけどさ、なーんか泣けるんだよねなんでだろ」

ぼーっと遠くを見ながら話す横顔はすごく綺麗だ。
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