短編
「あんた!まさか吸血犬か!?」
目出し帽男が東雲を指さして叫んだ。
吸血鬼で狼人間だから吸血犬なのだろうか。
というか吸血鬼だの狼人間だのはこんなに有名な話しなのか、自分は今まで生きてきておとぎ話でしか聞いたことはないというのに。亮はやけになりながら自分の尻尾を触ってみた。
ふさふさしているし、触られた感触もきちんとあった。
「えー、犬じゃなくて狼…」
東雲が不満そうに頬を膨らませた。
どうでもいいことを気にしている。
亮はため息を吐く。目出し帽男も同じことを思っているのだろうと視線をうつした。
「会えて光栄です!お連れとは露知らず!!大変失礼なことをーーー!!」
まさかの土下座である。ガラス片と血だまりの上に。呆然とする亮の隣で東雲は困ったように頬をかいた。
隣人の正体とはいったい。
亮が口を開きかけた時、遠くでパトカーの音が聞こえた。
亮は慌ててコート1枚を羽織って、東雲は裸足のままで、とりあえず目出し帽男も一緒に東雲の家まで逃げてみたのに、パトカーはどうやら通り過ぎただけだった。
目出し帽男と一緒に二人で東雲から服を借り(亮の借りたズボンはきちんと尻尾を出す為にチャックがついていた)、目出し帽を脱ぎ捨てた男はそれなりにイケメンだった。
「えー、では改めまして、半狼人間の高月と申します。父が狼人間で母が人間です。ちなみに10歳の時に両親とも群れからもはぐれてしまったので泥棒しながら生きてきました」
高月と名乗る男はきっちり背筋を伸ばしながら泥棒宣言した。
おい、泥棒どころか殺人未遂だ。
「お連れの方もすみません。いつもは金品だけ頂いて人には傷つけないようにしていたのですが……」
貴方があまりに怖くて動揺してしまって、と続けられるとまるで自分が悪いみたいで気分が悪い。亮はこいつは嫌いだなと思ったが、東雲はどうやら違ったようだ。
「それは大変だったでしょう?私の家に一緒に住みませんか?条件は泥棒はもうやめることです」
東雲は馬鹿だ。完全に同情している。
こいつは亮を殺しかけたのに。
しかも家に住まわせるだと?初対面の男を?
「まさか憧れの吸血犬と住めるなんて!泥棒はやめます!末永くよろしくお願いします」
高月はみつゆびをついて頭を下げた。
興奮してうわずった声はかなり気持ち悪いものだった。