短編

ぐだぐだと東雲から離れようとしない高月に一本背負を決めとっとっと片付けに向かわせた後、これからの事や疑問に思っていることを東雲と話し合うことにした。
場所は東雲の寝室だ。
そういえば東雲の家に入るのははじめてだという事に気づいた。何となく一緒にいることはあったのにお互いのことを殆ど知らないのではないだろうか。
まさか吸血犬(高月がいうには吸血犬といえば東雲一人を指すらしい)だなんて知らなかったし、外から見て広いとは思っていたが中に入ると東雲の家は広すぎて寂しい家だなんてことも知らなかった。

「ええっと、何を話したらいいのかな」

吸血鬼やら狼人間やらを詳しく説明すると長いらしいのでそこはカットを頼んだ。

「じゃあこれからのことね。あ、話しの途中で気になることがあったらいつでも質問してね。大学は私が休学届けだしておくから。その尻尾と耳が隠せるように練習してからじゃないと人前には出られないし」

確かに。今のところ尻尾も耳も大人しく生えているが、消える様子もない。

「あと一応人前では内緒ね。吸血鬼とか狼人間とか知ってる人もいるけど。大勢にバレるとアンダーポリスがくるから」

「はい。早速だけどアンダーポリスってなに?」

アンダーとかいう時点で嫌な予感がするが、ここは聞いておかないとまずいだろう。何かと。

「私達みたいな人間じゃないもの専門の警察かな?普通は裏警って呼ぶけど。悪いことすると殺すからね、ってたまに声かけしてるよ」

綿毛頭のとくにイケメンでもない普通の顔で、まるでこれが普通だというように、東雲はさらっと話す。だがどうかんがえても危険な組織ではないか。

「なんでそんなん、」

例えば高月を怒りにまかせてボコボコにしたら裏警がくるのか。一応あいつも人間じゃない、分類だろうし。

「だって裏警がなかったら人間なんて狩り尽くされてたよ?」

こてんと首を傾げてこちらを見てくるが、いかんせん二十歳を超えた若白髪の男だ、可愛くなんか……きゅーん。

「それから身体能力が高くなってるから物壊したりしないように力抜く訓練もするから。あと聖堂協会っていってね、一応私達と敵対する組織みたいなのもあるから気をつけて」

またまたさらりと東雲はばくだんをおとしていった。
まるで漫画のようだとどこか他人事として聞いていたが、もしかしなくても自分の命は危ういものになってしまったようだ。

「あとは私を守ること!」

東雲はふんすー!と鼻息あらく、満足そうに声高らかに宣言する。
どこか遠くを見ながらぼんやりしてばかりいる男だと思っていたから、その幸せそうなほやほやした微笑みが胸を締め付けた。

「一応吸血鬼でもあるから昼間は力もでないし、にんにくは食べれなくもないけど嫌い。銀はアレルギーみたいに赤くなっちゃうから苦手。でも触っても死にはしない!」

すごい?すごい?と聞いてくる綿毛の頭を撫でてやりながら疑問に思ったことを口にする。
この馬鹿可愛いやつに少し意地悪をしたくなったのだ。

「なら守る必要なくね?」

ほら、パタパタ手をせわしなく動かしながらしょんぼりしている。

「嘘だよ、ゴシュジンサマ。俺も東雲がいないとわからないことだらけで困るし、これから一緒に生きていこう」

撫でることをやめて綿毛頭を掴み、ぐっと視線をあわせる。
亮のことを見る東雲の瞳は潤んでいて、大好き大好きと訴えていた。
好きだ好きだ大好きだ、そんなに訴えられたら絆されてしまうだろう、やめてくれよそんなの。


吸血鬼だのなんだの、東雲以外が言ったら馬鹿じゃねーのとはったおしていた。
一生下僕とか、そんなの東雲が相手じゃなかったら死を選んでもいい。
死にかけて、目が覚めて、東雲がいたから天国だと思っただなんて、そんなことは墓場までの秘密にするしかないだろう。
一生下僕宣言が嬉しくて仕方なかったなんて、東雲は知らなくていいことなのだ。

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