短編

赤と白と青と黒。装飾のない帽子。子供用にしては些か可愛いらしさは足りないものの、弟達は気に入っていて、外に出るときは必ず被ってくれている。

ヘイゼルグリーンの瞳のアダムは赤の帽子。
兄の右手を握ってニコニコ幸せそうだ。
白い帽子で金色の髪をおさえながらニコラスは兄の後ろを歩く。
ふてくされて、短いくせっ毛を青い帽子ですっぽり覆ったユーリはニコラスの隣で自分の親指をしゃぶっている。
日本人とはまた違った色合いの黒髪のリリーは同じ黒い帽子を被って、兄の左手を引っ張りながら早く早くと急かす。
線の細い兄の雪平は幼い弟達に囲まれながら、町にある総合ショッピングセンターへ向かって歩いた。


今日起きた事件は明日にはもう皆知っている、それほど狭いコミュニティの田舎町で、この兄弟は有名だった。
〝たまたま〟海外旅行へいった社長夫婦が孤児院で荒んだ子供達を哀れに思って引き取った、表向きの美談は町の皆の真実として語られている。
雪平はその美談が好きではない。
孤児院にいた事は確かだし、そこでの扱いも悪かったのも確かだ。だがまるで善人のように扱われるこの夫婦が、気に入らない。

雪平はこの夫婦に捨てられた子供だった。
異国の地で夫婦になる前、留学生だった秋平と美音里は恋に落ちた。互いに複雑な立場だった2人は若さ故の情熱には勝てず、またお互いに未熟だったために、望まぬ子供を宿した。
産まれた雪平が1歳になる少し前、2人は日本に帰ることになった。2人にとって邪魔になってしまった雪平を、美音里は近くにあった教会の運営する孤児院前に捨てた。
神父が見つけた時には雪平は虫の息だったという。
雪平とかかれたドックタグを持っていただけで身分証明できるものは他にはなく、神父の子供として孤児院で育てられることになった。そんな雪平は、いつしか孤児院の子供達を面倒見るようになった。
学校にも行かせてもらえず、孤児院の中から出ることもない雪平を、罪悪感から迎えにきたのが秋平と美音里だった。日本に戻ってからもそれなりに紆余曲折あったらしいが結局2人は夫婦になり会社をおこして成功し、そして新しい子供を宿した。
その子供の世話をするうちに2人は雪平が可哀想になって引き取りに舞い戻ってきたのだ。
雪平は彼等と家族になるつもりはなかった。
孤児院にいる幼い子供達が、雪平の家族になっていたからだ。
しかし夫婦は聞かなかった。自分達の消せない罪を償いたかったのだろう、その幼い子供達も引き取って日本に帰った。
結局最初の半年で家族ごっこは終わり、雪平は夫婦と約束をして別れることになったが。

夫婦は養育費を送ること。
雪平は夫婦の実の子供だと名乗らないこと。

これだけで家族ごっこが終わった理由は想像ができるだろう。
見た目の違う子供達が伸びやかに過ごせるように、と田舎町に引越したことになっているが、実際は夫婦から遠い土地へ飛ばされたに過ぎない。
誰もそんなことは知らないが。
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