短編
誕生日なんてものは弟達にはなかった。
もちろん拾われた当初の雪平にも分かるはずもなく、日本で秋平と美音里から聞いて漸く雪平の誕生日は分かったのだ。
お祝いしましょうと美音里は言ったがあいにく自分で自分の生誕を好ましく思っていなかったし、美音里も秋平も雪平の誕生を心から祝ったわけではなく、自分の誕生日なんてものには全く興味がなかった。
ただテレビでみた誕生日のお祝いというやつを、弟達にしたかったのだ。
産まれてきてくれてありがとうって、
であってくれてありがとうって、
言ってみたくなったのだ。
そして雪平は自分の誕生日を弟達にプレゼントした。
パァーン!パァーン!
突然の破裂音に雪平は仰け反った。
アダムもリリーもユーリも驚いて子供用椅子から転がり落ちている。3人とも余程驚いたのか目をまあるくして、転がったまま動かない。
ニコラスは1人でカラになったクラッカーを手に、くひひっと笑っていた。
「なあにしてんだぁ?てめえも誕生日だろぉ?」
雪平の驚いた顔が面白いのか、ニコラスはひひひっと笑いがとまらない。
だらしないその口元からは涎が数滴垂れるが、ニコラスは全く頓着せずに垂れるがままだ。
「…………ニコラスの悪魔くん、ありがとう」
嫌味ったらしく返してやるとニコラスの中の悪魔は満足したのか、白濁しよどんだ瞳をようやくニコラスの青い瞳にかえした。
「また、でた」
しょんぼりと項垂れるニコラスの頭を撫でてやり、他の兄弟たちを椅子に座らせなおす。3人はまんまるい目のまましばらく固まっていたが、雪平がケーキの箱をあけて見せると一斉に動き出した。
「けーち!」
舌っ足らずなリリーに甘い甘いストロベリーケーキ。
「うおー」
興奮して鼻息あらいアダムにはショートケーキ。
「くひ」
先程とは違う愛らしい笑みで口元をおさえるニコラスにはチーズケーキ。
「…………♪」
静かに順番をまつ、お利口さんなユーリにはチョコレートケーキ。
そして一人に一つずつシンプルなラッピングをされた箱を渡す。
中にはそれぞれの好きな色、帽子と同じ赤白青黒、の半透明の小鳥の置物が入っている。
そして兄弟だけの幸せな誕生日パーティーが始まった。パーティーというには静かで、ささやかなものの、それから三日間も兄弟の話題になる程印象的なものだった。