短編

初めての買い物から1ヶ月が経とうとした時だった。庭で洗濯ものをほしていた雪平の目の前を小さな小鳥が横切った。
半透明の、真夏の南の海のような青色の小鳥だ。
雪平はちょうど手にしていた自分の下着を地面に落としてしまった。

これは誕生日プレゼントにユーリにあげた硝子の小鳥だ。間違っても生きてる、いや生きてるかは分からないが、このように羽ばたくものではない。
ピュイーと声高く鳴いて雪平の周りをひと周りすると、小鳥は雪平の視線を奪ったまま泥遊びをしていたユーリの肩に止まった。
硝子の小さな置物の小鳥で、未就学児にあげる
ものではないと分かってはいたが、弟達が好きそうなものだと直感で買ってしまったのだ。実際に彼らが手にしたのを見て不安になってしまったため、誤飲したり落として破片を踏むことにならないように皆で使っている寝室の、鍵付きコレクションテーブルにしまったのだ。

「ゆ、ユーリ?」

透明な硝子でできたテーブルで、同じく硝子でできた引き出しにしまって、それから鍵をかけて、鍵は雪平が管理していて。
弟達は寝る前に必ずそのテーブルに集まって、ひとしきり小鳥を眺めてから眠るのが日常になっていて。
もう訳がわからず、泥遊びに夢中のユーリに恐る恐る声をかけた。

「あい?」

桃のように柔らかく淡く色づいたほっぺたにまで泥をつけたユーリは、無表情のままこてんと首をかしげた。
呼ばれた理由がわからない、とでも言いたげだ。

「ユーリ、小鳥」

雪平が指さしてようやくユーリは小鳥に気づいたようだった。
驚くかとおもいきや、

「めっ」

心なしかむっとした声で、小鳥を手で追い払った。
明らかにユーリは動く硝子の小鳥と初対面ではない。
ユーリの手から泥が跳ねるより先に、肩から離れた小鳥は再び雪平の周りを一周してから、あいていた窓から家の中に入っていった。そこは寝室の窓だ。

どう考えても、悪魔だ。

雪平は泥まみれのユーリを抱き上げ、そのままお風呂に直行した。
無言のままシャワーでユーリを綺麗にすると、ダイニングにいたアダムとニコラス、それから衣装部屋にいたリリーを呼んで寝室にむかった。
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