短編

頭にタオルをのせたユーリを、特注のキングサイズのベット上にあげる。少し遅れて寝室にやってきた弟達も同じようにベットの上にあげてやった。ふかふかのベットの上にあげられて、弟達は楽しそうにじゃれ始める。
それをみてついつい癒されて忘れそうになったが、ちらりと確認したコレクションテーブルの中に小鳥は一体もいなかったため、ぺちぺちと頬をたたいて気合いをいれた。
引き出しの鍵はかけられたままだ。

「さあ僕の可愛い悪魔ちゃんたち!小鳥はどうしたの?」

雪平は少しでも威厳を見せようと怒ってますよ、の顔をつくる。
子供達はお互いの顔を見あって、しばらく雪平が怒っていることに気づいた。そして次に雪平の顔に視線をうつした時には、弟達の瞳は悪魔に彩られていた。

「バレたか」

逆になんでバレないと思ったのか。
アダムの悪魔に呆れてしまう。

「この子達があんまりにも小鳥が好きすぎるから、私達もついつい好きになっちゃったのよ」


リリーの悪魔が赤い唇をとんがらせて、まるで雪平が悪いとでも言いたげに弁解する。

「こうすりゃいつでも見れんだろぉー」

へらへらと笑うニコラスの悪魔は全く反省の色がない。

「………………ごめん、なさい」

ユーリの悪魔だけが唯一謝ったが、その顔は幼い子供がするには不釣り合いの悲壮感がただよっていて、つい雪平は怒っていないと言ってしまった。
悪魔達は一斉にニヤリと笑う。呆れてものも言えないが、どうせ本当に怒ってなかったのだから仕方無いか、とため息をついた。

「怒ってないけど、一言欲しかった」

子供のように拗ねて悪魔達から視線を逸らすと、視界の端で悪魔達が慌てるのが見えた。
この悪魔達は雪平に甘い。子供らしい幼少期を全く過ごせなかった雪平が、こうやって子供のように拗ねてみせたり、甘えてみると面白いように動揺するのだ。

「だって雪平が、誤飲とか気にして鍵かけたんだろ?これならもう心配いらねーよ。こいつらだって喜んでたし」

アダムの悪魔が、〝こいつら〟と自分の胸を指さす。
そうじゃないのだ、欲しいのはその言葉ではない。アダムの悪魔はどこかズレている。それじゃあ異性にモテないぞと心の中で呟いた。

「ごめんなさい。こういう事すると雪平が怒るかと思って、内緒にしてたの」

人一倍いや、三倍怒りやすくて、人一倍気の利く優しいリリーの悪魔がこうべを垂れた。
そうだ、悪魔のことは人には秘密にしている。
教会にバレればやっかいなことになるし、こうやって兄弟で静かに過ごすこともできなくなるだろう。それは兄弟も悪魔達も、誰も望んでいない。

わざとらしくふーと深くため息をついて、小さな悪魔達を見やった。

「悪魔の力はなるべく使わないこと。家の中でも油断しないこと。なるべく僕に相談すること。いいね?」

もちろん小鳥は時々遊ぶ分にはいいものの、家の中だけにとどめるように。そう締めくくると寝室のそこかしこに隠れていた小鳥達があらわれて、雪平の周りをピュイと楽しそうに鳴きながら飛び始めた。
小さな悪魔達は怒られて、皆一様に肩を下げている。

「夕飯、アダムとリリーはピーマンね。ニコラスは牛乳。ユーリはグレープフルーツ」

なんだかいじりたくなってつい意地悪を言ってしまう。
弟達と同化しすぎた悪魔達は、弟達の嫌いな食べ物が、同じように食べれない。感覚まで共有しているからだ。
嫌いな食べ物を口元にぐいぐいと寄せると悪魔達もまるで子供のように、いや弟達そのもののように、口をきつく結び涙目で雪平を見つめるのだ。
久しぶりにやってやろう。
今日はピーマンたっぷりの野菜炒めをつくって、飲み物は牛乳にして、デザートにグレープフルーツをかってきて。
ふふ、知らず知らずのうちに雪平の口から笑がこぼれた。
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