短編
矢桐家は代々ツナギヤと呼ばれる仕事を生業としてきた。
何とツナグのかは個人差があり、霊や妖怪といったもの、良縁や悪縁といったものまで様々な者がいた。共通点としてツナグ力は糸として見えるということだった。切れた糸をツナいだり、新たに糸を紡いだり、目当ての糸を探すことでツナギヤとして働いている。
矢桐家の血が濃ければ濃いほどこういったツナグ力が強い者が多く産まれる為、昔から矢桐家は近親相姦というタブーを犯すことが度々あるほどだ。
大々的に公表している仕事ではないが、噂が噂を呼び、三百年も続いている。
國嗣は矢桐本家に産まれた三男坊だというのにツナグ力が殆どなく、時々ぼんやり糸が見える程度で國染や峰國のように糸に触れて変化させることはできない。伝統をつなぐことができない國嗣は両親からの関心が薄く、使用人にすら酷い中傷をうけることがある。
ただ國嗣自身はツナギヤが好きではないし、幼い頃から学校にも行かせてもらえずに働き詰めの國染を見ていた為、この扱いは甘んじて受けていた。むしろ家に縛られ、これから先もきっと家にい続けるだろう兄が可哀相な程だった。
大人になったら家を継ぐのは國染で、補助として峰國が入るくらいだろう。
自分がツナギヤの仕事にも触れさせてもらえないのは高校卒業とともに養子に出されることが決まっているからだということを國嗣は知っていた。
家に縛られるのも、家に自分の行く末を決められるのも、気に食わない。小学校とは反対方向にひたすら歩いて向かった。
お昼用にお弁当を一つ、途中で見かけた個人商店で買った。平日の午前中から歩いている子供をみてお店のお婆さんは声をかけようとしていたが、國嗣の顔を確認すると店の奥に引っ込んだ。
この辺で矢桐家を知らない人はいないし、関わってはいけないことも知らない人はいないからだろう。その行動すら國嗣を苛立たせた。