短編

どれくらい歩いたのか、濡れた子犬のように腹がないたものだから國嗣は昼食にすることにした。
なるべく高い丘にのぼり、村を見渡しながらお弁当を開ける。
父にも母にも國染にも峰國にも、一人ずつ世話役がついている。それも全員が八場家からだ。
國染についていたあの生意気な世話役も八場翔也といって八場家の長男である。
昔から矢桐本家の人間には八場家から世話役がつくようになっているそうだ。理由は知らないが。使用人の中でも筆頭使用人や料理長等、仕事の取りまとめ管理や矢桐家の人間に近づく仕事は全て八場家の人間が勤めている。

八場家は昔から矢桐家いやツナギヤ至上主義で、ツナグ力がない國嗣には昔から世話役がいない。
小学校にあがる前、父から呼び出されたのは懐かしい。ツナギヤもしくはその補助になる訓練をしないかとたずねられた。兄のようにはなれないが、少しはツナグ力がつくだろう。それに訓練中でも世話役もつける。そのかわり訓練で殆ど学校にはいけないが、と続いた。
そんなもの、國嗣はごめんだった。
ツナグ力なんていらないし、ツナギヤにもなりたくない!父に向かって叫んだ。
父の目が、かわった。他人を見る冷たい目。
すとんと後ろの襖があき、八場家当主兼父の世話役の八場旺矢がそこに控えていた。

「しかと、聞き届けた」

そう一言だけ告げると父を連れて部屋を去っていった。
その日から同じ家にいながら國嗣は家族ではなくなったのだ。


兄弟だけが変わらず國嗣に接してくれて、それだけが救いだった。
それなのに國染は年を追うごとに仕事が増え、ツナグ力を高める為にと学校には一切行かず、二歳も年上なのに幼い言動が多く見え、國嗣は自分から離れていった。
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