短編

お弁当をすべて平らげる頃、ふと赤い花の目立つ家が目に付いた。玄関前に止まっているのは翔也の車だ。
意外と近場での仕事だったらしい。
ゴミをまとめて袋にひっつめ、周りをみながら静かにその家に近づいた。
ツナギヤは好きではないが、興味がない訳ではない。
車には誰もいないし、見える範囲には誰もいない。

チャンスだった。

國嗣はツナギヤの仕事はみたことがない。
父と國染のツナグ力をみたことがあるがそれっきりである。
覗いたところでどこまで見れるかわからないが、小学生の好奇心を少しは満たしてくれるだろう。
子供の小さな体を生かして家の中に滑り込んだ。玄関には確かに國染の靴と黒革の翔也の靴がある。
聞き耳をたててみるとどうやら二つある客間のどちらかにいるようだ。
この家の旦那様と子供は部屋から閉め出されたらしく、台所でお菓子を食べながら不満を言い合っていた。どうせお前らがいたところでちっとも見えやしないんだから、と笑いたくなった。が、自分だってあまり変わらない。
素早く台所を通り過ぎた。ついでにゴミを捨てさせてもらいつつ。

客間とおぼしき部屋はすぐに見つかった。
どうやら襖で間仕切りをしているらしく、団体がくる時は一つの大部屋にするようだ。
念のため周囲を確認し、國染達がいる部屋の隣に侵入した。
部屋を分かつ襖をゆっくりゆっくり小指の爪一つ分あけてみる。どうやら誰も気づいていないようだった。もう一つ分あけて、中をのぞき込んだ。

和室のそこには座布団が四枚出ていた。
内二枚は國染と翔也、一枚はうら若い女性、それから人間一人分沈んだ座布団が一枚。
そこには誰もいないのに、確かに人間が座った形で沈んでいる。
息を詰める。目を凝らす。うっすらと桃色の糸が女性の頭から伸びているような気がした。

「約束の期限がきました」

ぷっくりした唇を青ざめさせながら話す國染の声を拾う。
女性は笑いながら頷いた。

「それでは貴女には死んでもらいます」

危うく声をあげそうになった。
両手で口元をおさえながら女性の顔を見る。
やはり笑顔で頷いた。
細い國染の手が女性に向かって伸びる。桃色の糸を切るためだろう。
何が起こっているかわからないが、どうやらこの女性は死ぬらしい。
駄目だ、自分には女性が笑顔な理由がわからないし、手を掛ける國染の気持ちもわからない。
怖くなって一目散に家から抜け出した。


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