短編
何をしたのだと震える声でたずねると、父はそれすらわからないのだなと可哀想な目で國嗣をみた。
「見えただろう、青い糸が。時々切れそうになるから結び直すのだ」
どうしてそんな目で自分を見るのか、國嗣がまるで哀れな生き物のように。
確かに良いことばかりではないし、正直羨ましいと思ったこともある。それでも自分は幸せだ。これから好きな道を選べるのだから。
「わからない。どうしてそんなことする?」
八場の当主が起きてきやしないかと声を抑えてたずねた。
横たわったまま静かに呼吸を繰り返していたが、この男は父と自分が関わることを良しとしない。少しでも父の機嫌を損ねたら跳ね起きて國嗣を殴るかもしれない。
翔也と違って旺矢は容赦ないし、國染と違って父は止めない。