俺と僕
俺・・・
俺はどこから来たのだろう?

そして何処に行くのだろう?

俺はしがないただのフリーター。
親はだいぶ前に死に別れ、家族と呼べる者たちはどこにも存在しない。
人生とはなんなのだろう?
周りを見渡せば、子供を挟み楽しそうに歩いている夫婦が目に留まる。

仕事帰りの電車の中。

今までの事を思い出す。
今日は不思議と細部にまではっきりと浮かんでくる。可もなく不可もなくただ食えればいいと思ってその場をしのいで来た。恋もして終わりもした、何度も・・・
自分が何者なのか?
なぜ生まれたのか?
なぜ今ここに居るのか?
一人の世界に入り過ぎ、頭がおかしくなったのか?

世間で言うところのうつ病なのか?

[僕を助けて‼]

突然どこからともなく聞こえてくる。
辺りを見渡せば酔っ払いの白髪の爺さんだけだ。しかし確かに聞こえた! こんな時間に子供がいるはずはない。
また目を閉じ、ぼ~っとしていると
[上井草~上井草~]
車掌のアナウンスが耳に入り目を開ける。⁈目の前に子供らしき影のようなモヤモヤとしたなにかの姿があったがゆっくり消えていった。
目の錯覚と自分を言い聞かせ電車を降り、家路につく・・・暗い夜道。
今日は何か変な日だ。早く帰って寝るか~。足早にアパートに向かう。106号室の鍵を開け、6畳の我が家にたどり着く。もう深夜の1時。汗を流そうとユニットバスでシャワーを浴びる。またあれやこれやと考えだした。
もう40代、仕事はバイトで安月給、
借金もそこそこ、嫁も子供もいない・・・楽しいと思う趣味も何時の間にか忘れてしまった。
俺は人生に疲れたのか?この先生きてなにかあるのか?
[僕を助けて‼]
またあの声が耳に入る。
細くかすれた叫びのようだ。
シャワーを止め、耳を澄ますが水の引いていく音しか聞こえて来ない。
[プルプルプルプル~‼プルプルプルプル~‼]自宅の電話が鳴り響き、少しビクッと驚いた!
裸のまま電話に出ると、
[パッパンッパンツッ何色?]
なんだ~ただの変態バカのイタズラ電話か~すぐに受話器を置く。
すると・・・また[プルプルプルプル~プルプルプルプル~]
なんだまたか~放っておくとしつこそうだから一喝しようと電話に出た瞬間‼ [殺してやる‼]
‼‼
俺は驚き受話器を投げ捨てた。
するとまだ切れていない受話器の向こうから刃物を研ぐような嫌な音が聞こえて来た。
しばらく放心状態。しかし濡れていた体の冷えから我に帰り、再びシャワーを浴びる。
気を紛らわそうと無我夢中で体を洗い汚れを落とす。
シャワーを終えあわてて電話の線を抜いた。 落ち着きを取り戻しテレビをつける。
深夜のくだらない番組が映る。
またこんな番組しかやっていないのかとテレビを消すと、画面に顔のようなものが一瞬見えた。
俺の頭はおかしいのか?気付くとなにやら体が痒い‼手や足を見ると蕁麻疹が現れている‼
かゆくて掻き毟ると火傷のように変化し、よく見ると文字が浮かび上がる!
左手には6月、右手には13日、左ももには死、右ももには人と見える。
繋ぎ合わせると6月13日死人!
まずはかゆみを押さえるためメンタムをつける。いつしかその文字は消え掻き毟った跡だけが残っている。
明日バイトの同僚に相談してみよう。

そう思い床に就く・・・

懐かしい匂いのするどこかにいる。
少年が黒いボサボサしたものに追い掛けられている。黒いものは刄を手にし、少年は左手から血を流し必死に走る。
助けようとするが、体が動かない!
ただ見ているしかないのか‼

すると少年は俺の方に向かって来る!

来るな!

心の中でそう叫ぶが少年に届くはずもなく・・・
少年はフッとどこかに消え、
目の前には黒いものが刄を振りかぶる‼
一瞬の出来事!
俺の左手は切られ、地面にその手が転がる・・・
痛‼

同時に目が覚める!

時間は朝の9時。冷や汗を大量に流している。やっぱりなにかおかしい・・・
体が重い・・・嫌な夢のせいかとゆっくり起き上がり顔を洗う。
洗った水が赤く染まっているのを見て驚いた!鼻血かと思ったが、左手首が薄っすら切れている。傷は浅いがなにが自分に起きているのか不安になる。

とりあえず簡単に手当をしてバイトに行く準備を始める。飯にトイレ、軽くシャワーをしてから出発した。

いつもとあまり変わらぬ風景が目に入る。バイト先はパチンコ屋、いつもと変わらぬ常連客。
皆なにを思って生きているのだろう。

休憩時間に同僚に相談してみると
[ただの疲れだろ、あんまり考えすぎるな]
ただそれだけだった・・・

それから毎日のように怖い思いをするようになった。時には職場でも・・・
頭がおかしくなったのか‼
それからノイローゼ気味になり、バイトも休むようになって家からでられなくなった。
心配した同僚が電話をしてくるが電話に出る気も起きない。
俺は一体どうしたのだろう・・・
幻覚・幻聴・なのか・・・おかしな薬なんてやった事もない‼
体も重い・・・
それから眠るように意識を失った・・・

目を開けると赤く染まった水の中・・・息が出来ず苦しいと思ったがどこか心地よく思える。
死とはこういうものなのかもしれない・・・これでいいと・・・
その時‼
なにかに吸い込まれるように上昇し、あっという間に陸に上がる。
赤い海が眼前に広がっている。
陸地は砂浜と言いたいところだが、風呂場のタイルのような材質だ。
これも夢か?夢なら覚めずずっとここに居たい気もする。
ぼう~っと海を眺めていた・・・
たださざ波の音だけが薄っすらと聞こえている。
どの位の時間が経ったのだろう?
そもそもここに時間の概念が存在するのか?温もりさえ感じるこの場所から、離れたくないという気持ちだけが空間に漂っているようだ。
全く無気力な自分が好きになるような時間がただ過ぎている。

幻聴か?なにか遠くの方から聞こえる。[ぼ~ん・ぼ~ん]低音でなんの音か分からない・・・そのうち音楽のようにも聞こえて来た。どんどん・どんどん近くに聞こえて来る。
突然‼ギターをかき鳴らすような音が頭の中を駆け巡る‼
また意識を失う。

目を覚まし、夢の出来事だったと思ったがここは自宅ではない!


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