妄想世界に屁理屈を。
“…柚邑、こいつぁただ事じゃねーみたいだ”
「ん?」
アカネの声が脳裏に響く。
そして、彼女が意味したいことに気がついた。
「な、」
彼女たち姉妹は、靴を履いていない素足だったのだ。
山を走ったせいか土や傷だらけの白い足に呆然とする。
「あ、こんなことしてる場合じゃない!弥生、お姉さん敵じゃないみたいだから行くよ?」
「……敵じゃないの?追いかけてきたのに?」
「うん。人違いだって。ほら、行こ?」
「ん」
だっこ、というように妹は手を伸ばす。
当たり前のように、姉はそれに答えた。
妹を抱き上げた姉は、「じゃあ失礼します」と去っていく。
放心状態だった俺は、それでようやく現に戻された。
「あ!ちょ、名前だけでも!」
「え?」
くるりと姉が振り向いた。
寒いのに、素足のまま土を踏む。
爪は土を巻き込んで、真っ黒になっていた。
「…そんなに私たち似てるんですか?
守白今日子に守白弥生って言います」
そうして、闇の中へと消えていった。