妄想世界に屁理屈を。


「ミサキ、注げばいいんだよな?」


「えっ…は、はい」


そ、と冷たい指が額に当たる。


それから、体がみなぎっていく快感。

暖かさに包まれて、指の先まで酔いしれていく。



お姫様だっこで霊力を注がれたのは、さすがに初めてだった。



「ちったぁ楽になったろ。
で?スズだっけ?

アイツまた拉致られてんのかよ…ったく、手ぇかかるガキだぜ」


「黒庵さ、」


――まさか、記憶が戻ったの?

呆然とする中、鸞さんが歩み出た。


「黒庵…お主……び、BLではないか!けがらわしいっ」


え?そっち?


「…ンだよ鸞、思い出した早々説教かよ」


「黒庵…なの?本当に?え、狐が化けて」


「苑雛までふざけんなよ。つかちっちぇなお前」


「う、うるさい!黒庵がバカでかいんでしょっ」


苑雛くんも軽くあしらった。

怒る苑雛くんに、小さく笑う。



“…黒庵?”



中で言葉が響く。

前は拒絶され、深く傷ついた言葉を、もう一度アカネは口にした。


「…アカネ、お前いつから男になったんだよ」


綺麗に弧を描いた口許に、アカネが安心したのがわかった。


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