妄想世界に屁理屈を。
唖然とする紅太たちを尻目に、黒庵さんは厨房で呆然とこちらを見ていたおじさんに頭を下げた。
「…店長、すみません。のっぴきならない用なんで、早退させていただきます」
「え…あ、ああ…え?」
「で、今月で辞めさせていただきたく思います。まことに身勝手ですが、申し訳ありません」
「なっ…え、救急車とか大丈夫…なの?あ、ああ…辞める件はわかったけど、その男の子…」
「救急車はいりません。じゃ、荷物はあとで取りにきますんで…
鸞、行くぞ」
「命令するでない。それより辞めて良いのか?」
「ああ、“こっち”で忙しくなりそーだしよ」
お姫様だっこの上空からまさかの辞任を申し出た光景にあんぐりとすると同時に、なぜか嬉しくなった。
本当に、戻ったのだ。
笑いたかったがあいにく体をアカネにあげてるので笑えない。
「柚邑をどうするつもりですか」
そんなとき、背後から厘介の声が聞こえた。
「…あ?」
「柚邑の様子がおかしい。病院に行って、きちんと診てやるべきです」
(厘介…)
どこか冷淡に言う。
彼の俺を想うきもちが、純粋に嬉しかった。
神様とか理解してない厘介は、俺の体を心配してくれている。
友情が垣間見える瞬間だった。