妄想世界に屁理屈を。
逃げて、路地裏に入った。
知らないバーやらなんやらがところ狭しと並んでいて、全体的に薄暗い感じだ。
大通りから抜けた。
きっとここまでは来ないはず。
そもそも私が狙いと決まったわけじゃない。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせて、これからのことを思案していた。
「朱雀、何を逃げている」
「――あっ…」
ぬ、と沸いたような影に、恐怖した。
ミサキくんみたいに優しさを孕んでない、低く冷たい声。
白髪の混じった髪の毛に、髭。
年を感じさせない、まっすぐな気品溢れる姿勢・立ちずまい。
変わらない、あのときと。
ビックリするほど変わらない。
変わったのは、悪臭…
「ご主、人さまっ…」
「不思議な服を着ているな。現代のものか」
「…や、さわらないで!」
腕を捕まれる。
ピンクのがーり…が…なんちゃらコートとやらが、彼の手のひらでシワになる。
身震いした。
触られたことに、本能的に嫌悪する。
「なんで、あなたがっ…」
「求められたのだよ、私は。
それも――神に」
そう言って、心底嬉しそうに笑った。