妄想世界に屁理屈を。
最初は僕も彼が怖くてあまり近寄れなかった。
主が近づこうとするのをハラハラしながら見て、肉体が壊れないように最大の保護をしたくらいだ。
明らかに異常な存在で、異端児だった。
そんな中、
『白いのに名前をつけたんだっ』
馬鹿がいた。
『あいつなんも喋んねーだろ?勝手につけたんだ!』
『朱袮…喋んないんじゃなくて言語処理能力が著しく彼にはなくって』
『細かいことは気にすんなー
あのな、シロってつけたんだ!』
『そのままじゃな』
『うっさい、白いのって呼ぶよりかはいいだろーが』
『俺この間人間が犬コロにシロって付けてんの見たぞ』
『犬じゃないし!鳥だし!』
この頃は、またアカネの馬鹿の一部かと思っていた。
「だけど、そんなシロにも感情が芽生えてきてしまいます。
アカネの存在のせいで」
初めてシロの微笑みを見たときは衝撃的だった。
終始無表情で、喋りもしないシロが朱祢には美しい笑みを見せていたのだ。
決して満面とは言えなくて、口元を緩ませただけのものだったけど。
僕は大いに期待した。
彼は感情を覚えたのではないか?
ひょっとしたら、シロは破壊神なんかではなく、悪いものをやっつける黒庵みたいなものなのかもしれない。
だけど、そんなことはなかった。
感情を覚えてしまったシロは、嫉妬というものも覚えてしまった。
朱祢に恋をしていた黒庵に、憤怒したのだ。
彼は黒庵をあっさりボコボコにしてしまった。
後にも先にも黒庵が負けた相手はシロだけだった。
「あの事件か…」
「はい。それから、シロは家から逃げるようになりました」
気まずかったのか、己の力に恐怖したのか。
とにかくシロを見かけなくなった。