妄想世界に屁理屈を。
凛々しい眼差しを浴びせる娘に、怯えるように目を揺らし、そして笑った。
いつものお花畑のような笑みでもさっきの悲しそうな笑みでもない。
自重気味の笑み。
「水は火に勝つ。
父はそんな思想を産みました」
胸にきらめく水晶に手を添え、青い瞳を閉じる。
「…そんなわけないでしょう。
水は多すぎる炎には勝てないんです。
散り散りになって蒸発し、やがて目には見えない存在となっていくんです」
五行思想では、火は水に負ける関係であるとされる。
ただの思想。されど、一つの神話。
まぎれもなくお父さんの父である青龍が生み出したものだ。
「…証拠に、屈してしまったんです。火に、私は。
消えゆく蒸気となるのを恐れて怯えて固まって、そうして息子を殺されるザマを見せつけられた」
「うそでしょ…、ねぇ、お父さん!」
信じたくなかった。
わかりたくなかった。
お父さんが笑いながら震えてる、そんな光景の中の真実を。
「…鸞のいうとおり、救えたのやもしれません。
だけど、私は残念ながらそこまで強くはなかったんです」
ブチッと縄が引きちぎれる。
怒りのあまりお父さんが水晶の縄を引きちぎったのだ。
割けるようにしてちぎれた縄から、弾かれたように水晶がとびだし、畳を跳ねていく。
温厚なお父さんが縄を引きちぎるほどの怒りを向ける人物。
「きっと、私なんかより赤龍の方がずっと強いんですっ…!」
きっと何回も繰り返されてきた、卑下の言葉。
そのおかげで、僕たちが真に憎むべき仇が判明したのである。