妄想世界に屁理屈を。
「…あとは知りたいことないですか?」
じっと見つめられたからどきりとして、苑雛くんに視線を移す。
「あ…うん。ありがとう!だいぶよくわかってきたよ」
「なら良かったです。えっと、もう帰っても…」
「良いが、何か急ぐのか?」
口調に威圧感があるようだが、鸞さんなりに優しく聞いている。
「はい。妹が心配なので」
「ああ…仲が良いのじゃな。
4歳だったかのぉ」
「4歳です。弥生って言います」
もう一人の白髪の子か。
あの、走ってる途中で転んじゃった。
ぼんやりと弥生ちゃんを思い出してたら、ふと今日子ちゃんが悲しそうな顔をしているのに気付いた。
「…あの子、私よりずぅっと邪眼が強いんです」
「弥生ちゃんが…今日子ちゃんより?」
「はい。個人差があるみたいで、私はほぼないんです。
いえ、私になかったから弥生を作ったというか…」
それで色々と繋がった。
彼女の『自分をとらえたのなら邪眼目当てじゃない』という発言は、そういうことだったのだ。
つまり、今日子ちゃんには邪眼がない。
あっても微量だから、邪眼としての利用価値はない。
だから何が目的なのだと、そう言いたかったのだ。
「……作ったって…」
怒りを覚えているのは鸞さん。
腕を組み、苛立ちを隠せないようだ。
「…子供は道具じゃないじゃろう…!邪眼の有無でその子の価値を決め、なかったらまた新しいの、だなんて…道理に反する!
人間として信じられんぞ!」
「同感です我が主。
僕も子供を愛さない輩は大嫌いです」
言っていることはとても正しいのだが、鸞さんあなた人間じゃない。
「弥生は邪眼を持った子としてふさわしい教育を施されました。
子供に必要な善悪の区別、自我、正義感…その全てを曖昧にされ、なにが正しくて何が悪いのかわからなくさせられました。
そして、一人前の邪眼になるように洗脳されています」
4歳の子に。
なんて、非道な村なんだ。
逃げ出そうとするのも充分頷ける。
だって、彼女は妹を溺愛している。
妹をいつまでも壊す環境に置きたくないだろう。
だから足がボロボロになってまで、逃げた。
弥生ちゃんを後ろにかばって、俺らを敵視してまで。
「弥生ちゃんを守りたかったんだね…」
「…っ」
そう言うと、今日子ちゃんは青い瞳から大粒の涙をふわりとこぼした。
青から零れ落ちた雫は、花についた朝露のように色をつけていて、なんとも幻想的で。
一瞬見惚れかけたが、泣いていることに驚いて慌ててハンカチを手渡す。
「き、今日子ちゃん!?」
「あ…ごめんなさい、ちょっと最近色々あって」
「ごめんね、変なこと思い出させちゃって、」
華奢な背中を撫ぜようとすれば、大きく首を振った。
「ちがうんです。私、本当は全然弥生のことを守れてないんです…」