妄想世界に屁理屈を。



「…あなたが気に病むことないのですよ」

驪さんの優しい声が響く。

全てを包み込むような、年月を重ねた優しさ。


だからだろうか、俺は飲み込んで来た理解不能な感情をバカみたいに吐露した。


「でも…俺、こんなの初めてで、」

「それが普通です」

「正直、いやっていう感情ばかりが先走って、何が嫌なのか具体的に表に出せないんだ」



一一情けない話、俺は戸惑っていたのだ。



たぶん、温室で生きてきた生ぬるい俺には、この神様や邪眼といった問題はシビアすぎた。


感情がついていかない。


理性ではわかっていて、なのに先立つ幼い感情が置いてけぼりにされている。


要所要所でみられていたそれが、先ほど邪眼という決定的な問題の時に現れてしまった。

わかりやすく言えば、その幼い感情を塞き止めていたダムが決壊してしまったのだ。


こんなことは初めてで、だから戸惑っているのだ。



『理想』と『現実』の違いの惨さに、疲れてしまった。



自分の好きな身近な神様がした、汚い行為の数々。

自らハッピーエンドではなく、自殺に等しい道を選択した暴挙。



一一わかってる。



誘拐をしなくっちゃ、真実にはたどり着けないってこと。

結果的に、苑雛くんは『弥生ちゃんを助ける』という願いは叶えたこと。


たとえそれが『今日子ちゃんの邪眼を強くする』という、願いとは裏腹の代償によって叶えられたことでも。



それでも今日子ちゃんは笑った意味も。




だけどね。

どうしても嫌なんだ。


全部が叶えられたのに。


その願いはみんな代償があって。

そして俺は何もできなくて。


このもどかしさや、焦りにも似たいかりが。



嫌なんだ、抑えられないんだよ。






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