妄想世界に屁理屈を。
そんな幼いと蔑まされてもおかしくない俺を、驪さんは優しく受け入れてくれた。
「…いいんです。
本当に大事な、自分の核に迫るようなことは、なかなか言葉にできませんよ。
あやふやなんです。
自分が理性で考えてることと、本能で考えてることは全く違うといいます。
反故が生じて当たり前。
でもね、その本能の反故を感じるってのはぜんぜんおかしいことじゃない、むしろそれが人間のあるべき姿なのだ、という説があるのですよ」
なんていったかなぁ、なんて笑いながら。
「子供は小さい時は本能で生きています。でも大きくなるにつれ、言い方は悪いですが社会で生きていくための表面が出来ていく。
その表面を理性と人間は言うんです。
表面はどんどん皮を厚くしていき、しまいには本能を飲み込んでしまうんです。
だから、大人は自分の考えが持てなくなったり、社会に廃れてしまうのです。
これは避けられません。
むしろこうならなかったら人間として成長してないといえます。
一時、その皮と本能が触れるか触れないかあたり、人間はさ迷うのです。
『このまま本能を押しつぶして、皮を厚くしても良いのだろうか』と。
理性と本能がぶつかりあう…というか。
交互に出てきて迷わせてしまう、というか。
それが今のあなた」
相変わらず、話すのが嬉しくて仕方ないというように笑って。
驪さんは俺のおかしい状態を紐解いていく。
「青年期なら誰でもあること…なんですけど、ごめんなさい。
ゆーちゃんの場合、問題が重すぎます。一人の女の子の一生なんて…
それは巻き込んでしまったこちらが悪いんです、許してください」
ぺこりと黒髪に包まれた頭を下げる
…確かになぁ。
普通ならもう少しゆるい問題なんだろうけど、言うなれば俺は死刑宣告をわかい身でしたようなものだ。
ずっとつきまとい、後悔が残る。
それを消す手段はたぶんない。
皮が覆い隠してしまい、うやむやにされてしまうのだ。