妄想世界に屁理屈を。
「で、思い出すために…確証をつけるために、あなたはアカネの記憶を勝手に盗み見たと」
「…うわぁおっ!」
部屋の隅に黒い影、輝く水晶。
呼んだ覚えのないお父さんが、なぜか音も立てずに入っていた。
「そんなに驚くことじゃなくね?」
「僕は精神も子供になってるの!不意打ちには弱いの!
…たく、もう少し大事に扱ってほしいよ」
ここは屋敷内の僕の部屋。
子供道具とかなんかはもちろんなく、我が主の写真や絵や手紙が壁一面に貼ってある一一ちょっとストーカーじみた部屋。
未練がましく昔の僕の着物なんかも置かれている。
「不測の事態も頭に入れとかなきゃ、いざって時に敵にやられんぞ」
「脳みそ筋肉な黒庵にそんなこと言われるなんて、僕も廃れたなぁ」
…別に不測ってわけじゃない。
この屋敷はお父さんの作った異界だ、言うなれば彼そのもの。
普通の空間よりも、偏在しやすいのだ。
こんなことは少ないわけじゃない。
ただ、
「趣味が悪いですよお父さん一一盗み聞きなんて」
「私は麒麟みたいに慈悲深くないんですよー。
神々のプライベート覗くなんて、今更気が咎めたりしません」
…たしかに好きに感じ取ることができるお父さんからしたら、全く動作もないことなんだろうな。