妄想世界に屁理屈を。
◇◇◇


「なんでそんなに遅いのッ!
早くっ!もっ、もっと早く!!」


「公共のルールをやぶるわけにはいきませんので」


「こんの真面目秘書ぉっ!」


俺が罵倒しているのはミサキくんであり、場所はミサキくんの車の中である。



先ほど、黒庵さんにミサキくんから連絡が来たようで、どうやら俺の家の近所で変な匂いがしたらしい。


不審に思ったミサキくんがその匂いを探ると、なんと百瀬にたどり着いたようだ。


その匂いの正体までは突き止められなかったようだが、よろしくないのは確からしい。


で、真夜中に出かけてるというわけだ。


「もう!百瀬に何かあったらどうするの!?」


もう俺はパニック状態だ。

百瀬に何かあったら…そのことが頭に浮かんでは消えて不安となっていく。


「それは大丈夫です」

「なんで言い切れるの!」


のろのろと規定通りに走る車にイラついている俺にキッパリと言った。キッパリと。



「先ほどたまたまお会いしました荼枳尼天(ダキニテン)殿に、見張りをお願いいたしました」


「………ぅえええ!?」


さらりととんでもないこと言ったよこの人!?


「ちょ、荼枳尼天ってあのヤンデレじゃ」

“おー、なんだあいつ、詫びに来たのか?”

「たぶんそうでしょうね。
ただでさえ白狐は律儀な生き物ですから」


のらりと会話してるアカネとスズだけど、俺のパニックは鰻上りである。


「荼枳尼天って女の心臓を食べたがるんじゃ、」

余計危ない。めっちゃあぶない。


“その点については安心しろー。あいつ本体はそんな見境なく食べるタイプじゃねぇ”

「分家のほうの荼枳尼天とは別物なの。あいつはあいつで独立した性格を持ってたんだよ」


あ…そうか。

本体と分家は違う。

元は同じとはいえ別れていれば、全く違う道を歩み始めてしまう。


「それにあれは神格が汚れてた上に低かったから知性もなかったけど、
本体はインド神話最高神の妻としての品格のある素敵なお方なんだから!

そこ同じにしちゃ失礼だからね?」


隣に座るスズに怒られた。

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